阿部ブログ

日々思うこと

サリンなど神経剤の特性と診断・治療の現況

2013年09月30日 | 雑感
サリンなど神経剤の特性と診断・治療の現況について、下記の内容で話を。
前半部分だけ内容を一部省略して、下記↓

■冒頭
ベラドンナという植物があります。これ(写真を見せる)
イタリア語で「美しい淑女」を意味して ルネッサンス期にベネチアで目を大きく美しく見せるため 婦人たちが植物の葉の汁を点眼していました。
ベラドンナの葉や根には アトロピンが含まれていて 瞳孔を拡大する散瞳作用があり ナチスドイツはアトロピンを神経ガスの解毒剤として使えることを既に発見していました。
現在 米軍やロシア等で採用されシリアで使用された神経ガスに暴露された場合に使用する自動注射器は、アトロピンとパムの2本から構成される。(イスラエルの実際のブツを見せるし、映し出す)アトロピンは アセチルコリンをブロックして 過剰な信号伝達を抑えます。パムは、アセチルコリンエステラーゼから神経ガスを引きはがし、酵素を再活性化させます。神経ガスは、アセチルコリンエステラーゼに結合して時間が経つと、エイジングという現象によりパムが効かなくなります。特にソマンは約2分でエイジングが起こってしまい パムがほとんど効きません。

■はじめに
神経剤は、主として抹消神経シナプスにおける信号伝達に影響を及ぼすことにより障害を起こす有機リン化合物。開発はドイツ第三帝国だが、ヒトラーの指示により非人道的として大戦期使用せず。戦後、米英ソから技術が流出し、イランーイラク戦争、イラクによるクルド人弾圧において使用された。
平成6年6月27日、長野県松本市において発生した松本サリン事件、及び平成7年3月20日、東京の地下鉄霞ヶ関駅において発生した東京地下鉄サリン事件は、非軍事組織によって神経剤が生産され、民間人に対して使用された史上初めてのケース。
地下鉄サリン事件は、つまり化学兵器をテロリズムに使用することへの抵抗感を打ち破る出来事で、シリアにおける化学兵器使用問題は、この延長線上にある。この講演では、シリアで使用されたサリンを含む神経剤の特性を示し、それらによる中毒時の診断・治療法などの現況について説明する。

■神経剤の種類と特性
毒ガスは、第一次世界大戦において開発・使用されたが、神経剤の開発は1930年代にはじまる。
ドイツの化学工業企業トラスト・IGファルベン社のGerhard Schraderらは新規農薬の開発に注力し、様々な有機リン化合物を合成し、その過程で1936年にタブン、1938年にサリン、終戦間際の1944年にソマンを開発した。
これらは、最初にドイツで開発されたため、German gasの頭文字をとってG剤とよばれ、開発順にGA、GB、GDというコードネームがつけられている。
このG剤の他、1950年代にDDTに代わる農薬開発に取り組んでいた英ICIの植物保護研究所 Ranajit Ghoshなどの研究者は、硫黄を含む新規有機リン化合物の有用性に着目。揮発性は低いが、極めて毒性の強を持つ有機リン化合物は、毒(Venom)の頭文字をとってVXと名付けれ、この後、多種のV剤が欧米ソで開発され実戦配備された。

※観客の反応をみて以下を参考に:
神経剤は、他の有機リン系殺虫剤と同様に、アセチルコリンエステラーゼをリン酸化して不活性化し、ニコチンおよびムスカリン受容体、並びに中枢神経系(CNS)のその他の受容体においてアセチルコリンを蓄積させる。化学兵器に使用される神経剤には、タブン(GA:tabun)、サリン(GB:sarin)、ソマン(GD:soman)、シクロサリン(GF:cyclosarin)、及び戦後開発されたVXがある。室温では、VX以外は全て揮発性。VXはモーターオイルによく似た粘性を持ち、周囲が高温状態のときのみ揮発する。神経剤の蒸気は空気よりも高密度で、低い層に蓄積する傾向がある。神経剤はすべて脂肪親和性および親水性で、衣類、皮膚および粘膜に急速に浸透する。

神経剤と農薬は、紙一重なのだが本質的には同じ種類の劇物である。農薬の場合、神経剤のメチル基CH3、エチル基C2H5などのアルキル基がリン原子に直接結合したものは極めて少ない。これが神経剤と農薬の大きな相違点。
大部分のG剤は、アルカリ溶液によって容易に加水分解される。

サリンのときの反応式は、CH3P(O)FOCH(CH3)2(サリン)+H2O(水)→CH3P(O)OCH(CH3)2OH(メチルホスホン酸モノイソプロピル)+HF(フッ化水素)
※サリンと水の反応は、アルカリがさらに触媒として加わると反応が早まる。

以下の反応は極めて緩慢に進行。長時間を要する。
CH3P(O)OCH(CH3)2OH(メチルホスホン酸モノイソプロピル)+H2O→CH3P(O)(OH)2(メチルホスホン酸)+(CH3)2CHOH((イソプロピルアルコール)

サリンは25℃においてpH4.0-6.5では半分になるのに175時間、pH7.0では54時間、pH8.0では5.4時間、pH9.0では0.54時間。
一般的なイメージとしては、神経剤は気体として使用されると思われがち。「神経ガス」とよばれているから誤解を招くが、サリンなど純粋な神経剤は、常温においては無色の液体。「神経ガス」という呼称は適当ではない。

■神経剤中毒の診断・治療の現況

(今回は最初に結論を言う)
神経剤はアセチルコリンエステラーゼを不活性化してコリン作用を亢進し、生命を脅かす呼吸器および神経系の損傷を引き起こす。
アトロピン、及びプラリドキシムで治療すれば患者の生命を救うことができる。

神経接合部(シナプス)、神経筋接合部などにおいては、主にアセチルコリンが信号伝達物質となって命令を伝えている。命令の伝達が終わるとアセチルコリンは速やかにアセチルコリンエステラーゼ(AchE)によって分解され、次の信号伝達に備える。神経剤は、このAchEと不可逆的に結合し、アセチルコリン過剰状態を作り出す事により、筋肉の痙攣・引き攣り・虚脱・麻痺や縮瞳・気管分泌物の増加・鼻汁・流涙・尿失禁・腹痛・嘔吐などの多様な症状が出る。さらに、アセチルコリンは中枢神経にもあるので不安・興奮・不眠・悪夢などの症状が現れる。これらは有機リン系化合物中毒一般にみられる症状であるが、神経剤では縮瞳がきわめて顕著に現れる。これはシリアでも確認されている。

身体に付着した神経剤が付着している場合、当該物質を分析することにより原因物質が特定され、診断につながる。しかし、通常は神経剤中毒に特異的な診断法は存在せず、化学兵器の使用(神経剤を浴びたなど)に関する状況情報など付加情報が不可欠。
もし現地にガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)があれば、(一般的な病院、つまり臨床現場には装備されていないと思った方が常識的ですが)鼻汁や血液中に、メチルホスホン酸モノイソプロピルが検出されると、サリン使用の重要な傍証となる。患者は、縮瞳、分泌亢進、筋肉の痙攣・虚脱などの症状と、血中コリンエステラーゼ値の低下が見られ、有機リン系化合物中毒を推定する根拠となり治療の方針が固まる。

神経剤中毒の治療法は、アトロピンの静脈注射と2-PAMなどのピリジニウムオキシム(オキシム剤)の投与を行う。これ以外の治療法は無い。
アトロピンは、縮瞳・分泌亢進・嘔吐などの症状を緩和する。このアトロピン投与が本命の治療。オキシム剤は、アセチルコリンに結合した神経剤の分子を切り離して再賦活させる治療法。オキシム剤治療で重要な点は、神経剤がアセチルコリンに結合して一定時間がたつと、エイジングとよばれる不可逆変化が起こり、もはやオキシム剤は効かなくなると言う事。サリンの1/2エイジング時間は約5時間なので、浴びてから5時間以内に2-PAMを投与する事。これ重要です。

※付加情報:
パム(PAM)
プラリドキシムヨウ化メチル(プラリドキシムヨウかメチル、pralidoxime iodide)は、有機リン剤中毒の特異的な解毒剤。一般的な通称はパム(PAM)、若しくはオキシム剤。化学的にはピリジニウム環にオキシム部位が置換した構造を持つ。本来想定していた用途は、有機リン系の農薬中毒対処。PAMは、大日本住友製薬(前:住友製薬)が1955年より医療用医薬品「パム静注500mg」として製造発売。もともと同社の前々身で母体でもある住友化学は有機リン農薬を製造しており、同農薬による中毒に対処できる薬剤として細々と製造され、農業地帯の病院を中心に常備されてきた。
(※:ミツバチ問題でネオニコチノイドの質問がある可能性あり。観客に専門家/活動家がいる。質問歓迎)

神経剤中毒の予防としては、臭化ピリドスチグミン(ピリドスチグミンブロマイド)の投与は無意味。これは湾岸戦争は、米軍が第一線部隊将兵に投与したが、サリンやVXには有効ではない。特に臭化ピリドスチグミンは、作用時間が約8時間と短かく、1日3回の定時内服が必要で、仮に神経剤中毒を十分に予防するには大量の臭化ピリドスチグミンを体内に取り入れる事になるが、これは兵士の消化器を不調するなど副作用がある。これは、英軍でも投与され、イギリスの特殊部隊第22SAS連隊のアンディ・マクナブが『ブラボー・つー・ゼロ』にも書いており、メスチノン(ロシュ社の臭化ピリドスチグミン剤の商品)を強制的に飲まされ戦闘意欲を著しく減退させたことを書いている。
臭化ピリドスチグミンなど湾岸戦争時に兵士に投与された薬剤と劣化ウランが「湾岸戦争症候群」を生じさせたと言われる背景がこのあたりにあるが・・・(この部分は省略)

※観客の反応を見て付加的に説明:
(1)アトロピン:
アトロピンは、アセチルコリンのムスカリン様受容体の競合的阻害薬。
神経剤により生じる分泌過多、気管支収縮および消化器系作用を回復させる。アトロピンの成人常用量は、軽度の呼吸困難に2mg、重症の呼吸困難に6mgを筋注する。治療終了は、過剰分泌物の正常化および呼吸困難の改善。心拍数および瞳孔の大きさはアトロピン治療の臨床的指標としては不十分。頻脈は低酸素血症、ストレス、または重症のニコチン様作用に基づく場合があり、縮瞳は数週間持続することがあるから注意。アトロピンは、5-10分毎に2mgを反復投与することができる。神経剤に被爆した患者は、まれに最初の24時間で20mgを超えるアトロピンを必要とすることがある。これはシリアでも同様の報告がなされている。 

(付加情報)
アセチルコリン受容器には二つのタイプがある。骨格筋にみられるニコチン酸と、平滑筋、腺、中枢神経系で見いだされるムスカリン。
アトロピンはムスカリン受容器をふさぐ。このためアトロピンとオキシムはお互いを補完し、2つの解毒剤は同じく共同作用効果を持つ。
 
(2)塩酸プラリドキシム:
塩酸プラリドキシム(Protopam Chloride)は、オキシム系アセチルコリンエステラーゼ再活性化薬。
神経剤に結合することにより神経剤アセチルコリンエステラーゼとの結合部位から切り離し、脆弱となった筋肉を回復させる。塩酸プラリドキシムは、アトロピンと同時に投与する。プラリドキシムは、アトロピンの薬効で神経剤とアセチルコリンエステラーゼの結合が長時間継続する前に投与したときのみ有効で、早期の投与が必須。神経剤の半量が熟成するまでの時間は、ソマンで約2分、サリンで5時間、タブンで13時間、VXで48時間。この時間は患者の生死に関わる。プラリドキシムの常用量は1-2g静注または筋注。静注投与は、高血圧を避けるため、20-30分以上かけて行う。患者の容態を見て1時間毎に反復投与、または500mg/時間で連続静注する。 

(3)ジアゼパム
鎮痙薬ジアゼパム(Valium他;セルシン、ホリゾン)10mgを初期に筋注すると、重症の神経剤中毒患者における、永続的なCNS損傷を防ぐことがある。しかし神経剤の被爆・暴露状況による。
 
(4)トロピカミド
トロピカミド(tropicamide)は、局所適用の毛様体筋麻痺による縮瞳改善薬。虹彩括約筋および毛様体のコリン作用亢進を阻害し、神経剤による眼痛を改善する。成人用量は0.5%溶液1回1-2滴で、患者の容態をみて反復投与する。
 
■自動注射器
アトロピン2mg、プラリドキシム600mg、ジアゼパム10mg、およびモルヒネ10mgを(各々個別に)含有するバネ式筋注用自動注射器が、軍隊・準軍事組織においては常備配備されている。イスラエルにおいては、支給されれるガスマスク一式には、アトロピン注射器(薬剤込み)が一緒に配られている。
Meridian Medical Technologies, Columbia, MD (www.meridianmeds.com/civdef.html)から入手。(URLは大丈夫?確認)
 
スウェーデンの自動注射器の場合、HI-6(500mg)とアトロピン(2mg)が配合された薬剤が仕込まれている。HI-6は、損傷の原因すなわち、神経ガスによって抑制されたアセチルコリンエステラーゼに直接反応するオキシム。HI-6は、酵素を活動可能な状態に回復させる再活性剤の役割を果たす。またオキシムは、脳内への浸透能力が低いため末梢神経系で主に効果を発揮する。

(一部削除)

種々の神経ガスは多かれ少なかれオキシムで扱うことが容易な中毒を起こす。つまりサリンとVXは治療するのには最も容易で、オキシムが使われたならば、これらの神経ガス中毒の生存確立を高める。オビドキシムはタブン中毒に対して最も効果的だが、HI-6も有効。ソマンは最も治療の難しい中毒を起こし、HI-6でのみ治療できる。これは覚えておきましょう。
ソマン中毒は、抑制された酵素によって所謂「老化過程」を亢進し、酵素はオキシムによって復活できなくなる。HI-6がその再活性化能力以外に、それ以上の積極的な解毒剤効果を持っている可能性がある。これは患者の被爆・暴露状況によると思われる。

もし状態が10分以内に改善しない場合、患者に追加の自動注射を行うが、最初に追加のアトロピンと対痙攣薬であるジアゼパムを注射する。
神経ガスによるひどい中毒の場合、大量のアトロピン(グラム単位)が必要となる。活動可能なアセチルコリンエステラーゼのレベルは、次第に肉体自身の生産によって復元されるが、この過程は少なくとも2週間を必要とする。この期間と、おそらくはその後も、犠牲者は睡眠障害、記憶喪失、集中欠如、不安のような精神障害と、筋肉の弱まりに対する治療が必要となるだろう。ヒトラーの場合もそうだが、ガス兵器や神経剤など化学兵器に暴露した結果の精神的問題は、低い濃度に長く晒された場合に深刻かも知れない。これは経験から言える事です。

■シリアの状況(一部のみ記載)
化学兵器が使用された地域は2ヶ所。東グータと西グータ。東グータ地域はザマルカ地区とアインテルマ地区、西グータ地域はマードミーヤ地区。使われた兵器の残骸を調査したところ、これらの兵器は政府側しか所持していないことが判明。
東グータには330ミリロケット弾、西グータでは旧ソ連製140ミリロケット弾。これらロケット弾の弾頭は先が筒状になっており、化学兵器(サリン、VXガス)が装填できる。
ダマスカス市内の病院で働く医療従事者へのヒアリングによると、痙攣や垂涎、縮瞳、視力低下、呼吸困難などの症状で多数の患者がきているとの発言を得ている。シリアでは、アトロピン、エピネフリン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンなどの薬剤が不足している。


■神経ガスの検出物
通常ある化合物を合成するにはいろいろな方法があるが、製法によっては前駆体(物質を合成するとき、その物質より前の段階にある物質)や
中間体(原料物質から最終物質に到るまでの各段階ごとの生成物。中間生成物ともいう)が異なっているので、それら前駆体物質が検出されれば、その化合物がどの製法でつくられたかを推測することができる。

土壌や水からサリンの分解物を検出する方法。
この分析方法を最初に確立したのは、イギリス・ポートンダウンにある化学戦防衛研究所。1988年、イラク政府がクルド人攻撃のときにサリンを使ったという場所から、1992年に土壌のサンプルを採取し、質量分析によってサリンの分解物を検出し、サリンの使用を実証した。検出したのは、メチルホスホン酸イソプロピルとメチルホスホン酸。(後述の地下鉄サリン事件に関わる)

被害者の血液や尿から検出される物質から。
サリンは体内のアセチルコリンエステラーゼ(AChE)と結合し、血液中のAChEの濃度を低下させる。しかし、AChEの濃度を測定しただけでは、どんな神経ガスや有機リン殺虫剤を使ったか判断できない。そこで被害者の尿や血液から、これらの物質の分解物を検出することによって、中毒の原因物質を判定する方法をとる。AChEとサリンの複合体は、水とゆっくり反応して少しずつ分解され、メチルホスホン酸イソプロピルが検出される。水と反応して、もっと長い時間がたてばイソプロピルアルコールも検出される。

(一部省略、書かない方がよい)

※付加情報(既に語っているが付加的に書いておく)
アセチルコリンエステラーゼ(AChE):アセチルコリンを加水分解する酵素で、呼吸をする肺の筋肉は、脳から神経を通して命令がくることで動く。アセチルコリンという物質が、神経から筋肉に「縮め」という命令を伝える。この情報が伝わると、筋肉がぎゅっと縮んで、肺がきゅっと小さくなる。次に、アセチルコリンエステラーゼという物質が「縮め」という情報を捨てる。「縮め」という情報がこなくなると、筋肉がゆるんで肺が広がる。この繰り返しで、息ができるわけである。 もし、サリンが体内に入るとアセチルコリンエステラーゼと結びついて、アセチルコリンエステラーゼが働かなくなってしまう。そうすると、アセチルコリンからの「縮め」の情報しかこないため、筋肉が縮みっぱなしになってしまう。そのため、肺は広がることができなくなり、息ができなくなってしまう。サリンというのは、呼吸機能を破壊する化学兵器。

イラン・イラク戦争の際にイラクが使ったタブンの例。
国連は三つの方法で、イラクが間違いなくタブンを使ったと判定。主成分であるタブンのほかに、前駆体あるいは副生成物と考えられる二つの物質が検出した。(詳細略)タブンの合成法はいろいろあるが、ある製法と照合すれば、イラクのタブンがこの方法によって合成されたことがわかる。

地下鉄事件でのサリンの特定の例。
事件当時、電話で「地下鉄で回収したサリンのなかからメチルホスホン酸ジイソプロピルが検出されたが、その意味するところは?」という質問が。サリンの合成法は各種あるが、質量分析によって中間体、前駆体を検出できれば合成法が特定できる。

地下鉄サリン事件の場合には、以下。

(1)事件現場に、サリンにメチルホスホン酸ジイソプロピルが混じっていた。
サリン合成法では、メチルホスホン酸ジフルオリドと、同じ量のイソプロピルアルコールが反応してサリンが生成。その際、2当量のイソプロピルアルコールが反応する反応式も考えられるが、メチルホスホン酸ジイソプロピルはサリンと一緒にできた副生成物であると推測可能。
(2)上九一色村の土壌からも、サリンの分解物であるメチルホスホン酸とメチルホスホン酸ジイソプロピルが発見されている。

※時間があれば、以下を話す。(一部省略、書かない方がよい)
地下鉄サリン事件の際、メチルホスホン酸ジクロリドが検出している。松本サリン事件の際にも検出されている。裁判では、メチルホスホン酸ジクロリド検出は問題にされなかった。検察側の冒陳陳述の際には、メチルホスホン酸ジクロリドからメチルホスホン酸ジフルオリドを合成した時点で蒸留し、メチルホスホン酸ジクロリドは除かれているが、現実には事件直後に存在しないはずのメチルホスホン酸ジクロリドとメチルホスホン酸ジメチルを検出。(省略)
オウムのサリンは、彼らが生成したサリンとは別のサリンを混ぜて使用した。

■後半部分(全部、省略)

以上

キャノングローバル戦略研究所が『習近平政権下の中国経済と日中関係』の講演会を開催

2013年09月24日 | 雑感
キャノングローバル戦略研究所の 研究主幹 瀬口清之氏が『習近平政権下の中国経済と日中関係』と題して講演を行った。
個人的には・・・・・
(1)中国経済の先行きを楽観視しすぎと感じた。
(2)中国との戦略的互恵関係が日本にとって必要かつ重要であり、今後増々その重きをなす事については理解。
(3)今までの主としてメディアから知り得た中国を本当の中国と認識してしまう危険性があることを認識した。
瀬口氏の講演を聞いて、個人的には中国の歴史、特に清朝以降の歴史を紐解き勉強し、自分なりの中国観を持ちたいと思った次第。以下、講演の概要を脚色して記載する。

(1)はじめに
習近平政権が正式に発足してからまもなく半年。尖閣問題の日中関係悪化から約1年が経過しようとしている。政治・外交&安全保障面では最悪の状況が継続しているが、日中間のビジネスは、殆どの業種で尖閣問題の影響を受けることがなくなり、順調に業績を伸ばしている。また一時は中国経済の失速が報じられたが、現在は持ち直し、懸念されているシャドーバンキングのリスクもコントロールの範囲内に留まる可能性が高いことが明らかになってきている。日本企業の中国での存在感の拡大、中国経済への貢献が日中関係にも確実にプラスの影響を与えている状況。こうした経済関係の緊密化をキーにして日中関係の安定化を促進する為にはどのような取り組みが必要かを中長期的な視点も交えて考えたい。

(2)中国経済の現況について
実質成長率は、リーマンショック後安定しており、直近では7.5%と、昨年来7.0%で安定しており、トレンドとしては徐々に6%台、5%台と低下していくと予想している。この実質成長率が下がる要因は、①輸出の減少(外需の低下と競争力の低下)、②設備投資の鈍化(特に過剰設備産業である太陽光、鉄鋼、セメント、ガラス、造船などの業界で顕著)、③習近平政権後に出された綱紀粛正を謳った8条規程の3つである。

綱紀粛正をための8条規程は、以下の通り。
①文章は中味のある内容で簡潔に。
②要人外交の際の随行員の大幅削減(規定の交通手段の利用、中国系組織の動員などによる歓送迎禁止)
③要人警護の簡素化(交通規制、道路封鎖などを止める)
④報道の簡素化
⑤党中央が統一的に許可した書物以外の発行禁止
⑥住宅、別荘、車両などへの出費軽減と倹約令校
⑦官官接待や官民接待を禁止、外国ブランド品などの贈答禁止
⑧不要な会議の抑制と会議時間の短縮

この綱紀粛正でグッチやフェラガモなど海外ブランド品の売り上げが急減している。如何に賄賂が横行していたかの証左である。

景気の下振れを押さえているのが、①インフラ建設の増加と、②不動産投資が堅調なこと、③雇用と賃金が継続して上昇の3つで、高速鉄道事故後に抑制されていた鉄道建設の再開や、国内報道からすると意外かもしれないが、意外にも不動産投資が堅調である。また都市雇用労働者の新規増加数は2006年以降継続して1000万人を超え続けている。
不動産価格については、昨年12月に上昇したがこれは中央による政策によるもの。その後は安定して1500元~2000元/㎡の間で推移している。7月北京に行ったときには、100㎡の広さのマンションだと約6000万円。中国の場合、共用スペースが広さに含まれる為、100㎡の正味住宅部分は、約70㎡。大学卒業で月収5万円程度なので、とてもじゃないが6000万円もするマンションは買えない。このような背景もあり、中国政府は、不動産取引の適正化に躍起となっている。温家宝が政権最後の最後に不動産取引に関する規制を2月に出した。

①主要都市(直轄都市、単列、省都)は価格抑制目標を公表
②主要都市は規制を更に強化(20%のキャピタルゲイン課税を導入)、2軒目の以上の住宅購入時の頭金比率(現在60%)及び貸出金利(現在の基準金利1.1倍)の引き上げ、北京市戸籍単身者が住宅を購入する際は住宅1軒に限定。
③商品住宅供給量を増加
④低所得者向け保障性住宅の建設を加速
⑤住宅販売者に対する監督強化

温家宝の不動産取引規制は実質、有名無実。北京市は指示に従おうとしたが、それ以外の直轄市や省都は無視をきめこんだため、結局北京市も不動産取引の規制を止めた経緯がある。因みに中国では、不動産取引税は実態として徴取されていない。
日本のメディアによれば地方政府の債務問題などで今にも中国経済は破綻するかのような報道がなされているが、経済の状況はとても安定していると言える。景気は緩やかに下降し、雇用・物価ともに安定。物価は3.5%以下で推移しているし、前述の通り雇用も安定して増えている。成長率は8%台から徐々に下がって今は7%台。政府の基本方針としては「保七」を当面維持すると言うもの。「保七」とは成長率7%の事で、以前は「保八」と言っていた。上記を踏まえるとマクロ経済の刺激策は、今は必要ないとの判断。つまり今の経済状態は「ちょうどいい感じ」と言える。

習近平政権発足後、マイクロ政策の運営能力については安心感が高まった。李克強と経済政策に関する考え方は完全に一致しているとの見方が有力。
特に2点。
①成長率低下を容認。過剰なマネーサプライは抑制。
②イデオロギー闘争よりも構造改革を推進する。(←これについては後述)
しかし、②の構造改革の効果的な実行力を発揮出来るかは未知数。これが最大の注目点。

上記①にある過剰なマネーサプライを抑制とあるが、具体的には銀行融資に対する管理強化がある。これは、銀行の不動産投資やインフラ開発向け貸し出しに対する管理を3月より強化。その影響は統計に表れており地方政府の資金繰りは4月,5月以降、厳しい状態が続いている。これが地方債務問題と絡められて報道されている訳だが、実際に地方政府は契約済みのインフラ建設の実施が先送りされたり、工事が中断したりしている。
それとシャドーバンキング問題。このシャドーバンキングの主要部分は「信託」を通じた理財商品の販売による資金融通で、運用先は手形、委託貸付、それと問題の不動産開発、インフラ建設などである。不動産開発や収益性を無視したインフラ開発が横行しており、早晩破綻すると見る向きが多いのはみなさんご存知の通り。このシャドーバンキングの規模は中国のGDPの半分とも言われ20数兆元と推定されている。銀行の定期預金の利率が3.0%なのに、理財商品の利率は4~5%であり、この利率の差を埋める運用益を上げる事が出来るか大いに疑問視されている。
シャドーバンキング問題については3つの誤解があると思っている。一つは中国経済は減速から失速に向かっているとするもの。これは先程言ったように、中国経済は良い状態にあり、世界経済に大きな変化が無い限り、当面は継続するだろうと思う。また不動産バブルが崩壊するリスクが高まっていると言う指摘。これも不動産価格は高値なれど安定推移しており、政府も不動産投資については厳しく監視規制を行うので、バブル崩壊はないと思う。それと6月の短期金利上昇を受けて金融機関の経営が悪化しており経営破綻の恐れありと言うが、これも政府の監督が行われており、経営破綻は無いだろうと考えている。

つまりシャドーバンキング問題は、制御可能な問題であり、実際に焦げ付くのは全体の2割程度と見られている。硬い推計では、全体額の10%が回収不能となると金額としては約5000億元で約8兆円。中国5大銀行の昨年度純利益が7700億元なので、損失が生じても対処可能な範囲。また金融システムの安定を望む中央政府も必ず介入するだろう。これは日本のバブル崩壊を一番研究して政策に反映しているのは中国だから。だが、楽観は出来ない。不動産開発やインフラ開発の成否、運用リスクは地方政府の地方債務問題に直結するので、地方債務問題が深刻化すれば、当然地方政府自体への直接的影響は看過できない。現在、国務院直属の審計署、所謂日本で言う会計検査院が、地方債務の実態調査を実施中である。

(3)習近平政権の課題
習近平政権は、小平以来の歴史的転換点に位置する政権で、その使命はズバリ「ミドルインカムトラップを克服」し、先進国入りする事。過去にミドルインカムトラップを克服できたのは、日本を見習った経済政策を取った韓国、台湾、シンガポールのみである。ミドルインカムトラップとは、低所得国が中所得国に達した後、先進国の仲間入りをするのに、ある種のハードルが存在する。中所得国から先進国へ移行する際のハードルをミドルインカムトラップと言う。ミドルインカムトラップを克服するためには、国内市場の安定的な発展が必要。その鍵を握るのは、ひとえに消費の拡大。特に大規模な消費を生み出す中間層を拡大するには、所得再分配政策が必須。中国には中間層が薄く、所得差が極めて大きく、これが為、国有企業や高所得層を対象とした所得税、相続税、贈与税の税率の引き上げ、土地保有税の適正化など所得再分配政策による所得格差の縮小が欠かせない政策となるが、この実行が極めて難しく、過去の政権は手を付けずに今日の習近平体制まで引きずってきた。

中国がミドルインカムトラップを克服する条件は、①国有企業の民営化、②過剰設備の削減、③金融の自由化。④所得格差の縮小、⑤環境改善、⑥汚職・腐敗の是正の6つ。一番厄介で最大の難関は、国有企業の民営化だろう。そもそも中国共産党の寄って立つ党是が、私有財産を否定し、全て国有化して国家の統一的管理のもとの経済で運営していく、と言うものであり、これは即、右派と左派のイデオロギー闘争を誘発するので、取扱いが非常に難しい。過剰設備の削減は、冒頭述べた通り造船、セメント、ガラス、太陽光、アルミなどの各産業で既に削減が進行しているが、これは全ての産業分野での設備資産の最適化が求められている。金融自由化は、徐々に進んでいくと思われるが、今後の詳しい金融政策については、今年秋の第18期三中全会で明らかになると思われる。環境の改善に関しては、PM2.5など報道されている大気汚染と深刻さを増す水&土壌汚染など環境の改善は喫緊の問題であり、中国人男性と結婚した日本女性は、子供を日本に移すなど健康面の脅威を避ける行動が散見される。それほど環境が人間に対する健康被害は甚大なものがある。欧米では、北京への赴任を拒否する事案も発生しており、経済活動にも支障をきたすようになっている。また所得格差の是正も頭の痛い問題。消費を拡大する1万5000ドル以上の年収を得る中間層を育成するには、所得格差の是正は避けて通れないテーマで、特に内陸部と沿海部の格差是正が重要。役人の汚職と腐敗については、新体制移行後すぐに対策が行われ、綱紀粛正が浸透しつつある。

11月開催の第18期三中全会は、第11期(小平)の時のように大きな方針転換は行わず、従来の政策の基本方針との連続性・継続性を維持すると思われ、特に国有企業民営化など階級闘争やイデオロギー闘争を引き起こす課題については、明確な方針を打ち出さないだろう。殊、経済政策に関しては習近平と李克強の意見は一致しており、今後もぶれないだろう。重要なのは三中全会後の改革実行力にある。習近平政権が抱える歴史的とも言える課題に如何に解決の糸口を見つけ、実行して結果を出すか。極めて難しい舵取りになる。

(4)日本企業の対中ビジネス
日本経済にとって中国市場はモノづくり現場、工場としての中国であったが、今後は日本製品や自社サービスを売る市場として本質的に変化する。それは2009年、2010年にGDPで日本を抜き、2015年、2016年には米国のGDPを抜くと予想され、2020年以前に日本のGDPの2倍を超え、2030年には3倍以上となると予想される、中国経済の規模拡大は、本質的な対中国ビジネスのあり姿を変える。
2012年の実績で、アジア経済全体で日中の占める割合は、両国だけで8割を占めるが、今後中国に替わるビジネス市場として有望な国がアジアにはあるだろうか?2012年の一人当たりGDPの比較で見ると、マレーシアが断トツで1万ドルを超えている他は、中国、タイが約6000ドルで、それ以下は4000ドルに達しない。これからの経済成長が期待されているインドネシアやインド、ベトナムの一人当たりGDPが極めて低い。また経常収支とGDPを比較してもインド、インドネシアなど巨大な人口を有する国が赤字であり、各種経済統計を比較分析すると、今後の日本企業における有望な市場はやはり中国であるとの結果となる。

但し、中国ビジネスにも中長期的リスクが存在するのは事実。しかし、中国経済の停滞で一番ダメージを受けるのは日本である。これは日中の経済が既に一体化している事に起因する。即ち中国の国内経済問題は、日本の経済問題であり、日本の国内経済はやはり中国経済に影響を及ぼす。今後中国経済の規模が拡大する程、中国、日本、韓国、台湾など含め、アジア経済圏が一体化し不測不離の関係となっており、相互の影響は避けられない。尖閣問題で日中両政府の関係が険悪であるが、経済関係はと言うと、既に去年の12月にはほぼ正常化しており、一番影響を受けている政府調達関係や観光もそれなりに回復傾向にある。

中国政府や地方政府の本音は、ドイツ企業と共に日本企業の中国進出を歓迎しており、納税面での貢献や現地中国人の人材育成にも力を入れ、かつ一度進出すると撤退せず、利益が上がるまでへばりついて現地で頑張る姿勢を高く評価している。そんな中、日本企業における中国ビジネスは二極化しつつあると分析している。特に負け組に関しては、従来の、工場としての中国のイメージを払しょくできずに、中国に進出したものの、現地化が進まず、中国を知らない本社首脳部が重要事項を全て決定してしまう傾向が強い。また主要ポストを日本人が独占し、幹部日本人は日本を見て仕事をしている。中国人を登用するにも日本語が流暢で根回しが上手い人間が評価され重用されるなど、顕在化する問題には共通項がある。最大の問題は、2008年以前の中国しかしらない自称中国通がアドバイザーとなっている事が多く、これが経営の判断を誤らせる大きな隠れた原因となっている。
中国で勝ち組となる為には、中国を工場として見ていた時代の事業部制を廃止し、中国を専門で担当するエリア制への移行が欠かせない。これを決断し実施できるのは社長だけであり、社長自身が中国を理解していなければ実行は不可能。年に数回は必ず現地・現場に足を運び現地の声を聴く事がとても大切。

(5)日中双方が望む関係正常化
今後の日中関係を論ずる上で重要な前提は、中国の改革開放政策は今後も不変である事。三中全会後に、中国政府は本格的な構造改革に取り組みを始める。その重要な要件は経済の安定。中国経済の国際競争力を中長期的に維持拡大させていく為には、日本との戦略的互恵関係が必要である。特にリーマン危機以後の欧米企業撤退後、地方政府の税収と地元雇用を支えているのは日本企業であるとの認識・評価が定着しており、尖閣問題で如何に政府間がもめようとも、経済関係は不変であったのは特記に値する。中国政府は、日本に対して経済制裁を検討したが、結局発動できなかったのは地方経済への影響が無視できない程大きいとの戦略的分析が背景にある。

事実上の政経分離状態が生起している。地方政府は中央に配慮することなく、日本企業の地元誘致に専念し、地方政府幹部と日本企業幹部の関係拡大はとどまる所を知らない状況。4月16日、汪洋副総理が日本国際貿易促進協会の訪中団と面談した際、現在の中国の発展は日本のおかげである。日中両国が協力すればともに栄え、争えば共倒れになる」と言った趣旨の発言をしたが、将にその通りである。政府間でも両国関係の修復に向けて徐々に動いている様子が窺える。9月5日、安部首相がG20の会合の合間に近寄って行き、習近平国家主席と立ち話を5分程度行ったと報じられており、尖閣から1年を経過してようやく変化の兆しが見えてきた。

日中関係の担い手は、今までも、これからも民であり続けるだろう。日中間での企業・個人レベルでの交流拡大が必要で、中国の地方政府の役割も重視する事が肝心である。両国政府の役割は、ダメージコントロールと相互交流の舞台づくりにこそあり、軍事衝突などもっての他である。最後に中国の発展は、日本の発展であり、日本の発展は中国の発展である。これは両国民がそれを担い拡大発展させていくのである。

NSA/GCHQによるインターネット上の暗号データの傍受&解読プロジェクト

2013年09月20日 | 雑感
ブラジルでNSAの通信傍受が話題となっている。
通信傍受の対象となっているのは、ジルマ・ルセフ(Dilma Rouseff)大統領な政府要人は勿論のこと、民間企業では、南米最大の半官半民石油採掘会社「ペトロブラス」(Petrobras)が対象となっている。当然、他の企業も監視対象となっているのは確実。
米国家情報長官(DNI)のジェームズ・クラッパー(James R. Clapper)長官は、通信傍受を行っている事は秘密でも何でもない、と発言しているが、その通り。何の不思議でもなんでもない。国家たるもの(また企業も)大なり小なり通信傍受、暗号解読、盗聴は行うもので、ルセフ大統領は10月の訪米を中止するとしているが、この程度の事で訪米を中止するのは如何なものか。

ニクソン大統領を辞任に追い込んだジャーナリスト、ボブ・ウッドワードが書いた『VEIL The Secret Wars of the CIA 1981-1987』には、三菱商事の暗号通信を傍受解読し、三菱が米国の機密に属する情報を入手し本社に送信していた事を紹介しているが、これは勿論NSAの仕事。三菱の通信を解読出来るのであれば、他の企業の通信も解読出来ると考えるのは当然。
でも、それは80年代の話でしょ?なんて馬鹿にするなかれ。インターネットの世界で使われている暗号は、そもそも解読出来る暗号で、単に解読するのに時間がかかりますよ、と言う奴で、果たしてこれを「暗号」と呼ぶのか?とは以前から疑問に思っている所。公開鍵暗号が考案された時に、NSAがどのように介入し、策動したかを知るには、スディーブン・レビーの『暗号化』に詳しい。当時はIBMと結託したが、今はマイクロソフト、オラクル、グーグル、シスコなど米系IT企業に介入している。中国は、このあたりを良く知っていて「紅旗Linux」と言うソースコードがオープンで、自国仕様にセキュリティを高めたオペレーティング・システムを開発し使用している。

本当に成功させたいビジネス案件については、自分たちだけでなく、他社も含めてインターネットや携帯は使用しないことです。これを個人的にはビンラディン方式と呼んでいるが、そうしないと情報保全が出来ない。そもそも暗号化しないメールなんて、喩えると、満員電車の中で重要案件の話をしているのと同じ。電車に乗っている人は、皆その話を聞いていて、スマホで「電車の中で、こーんな話をしているよ~」。でも、メールを暗号化するとNSAやGCHQの監視対象となるから厄介だ。

さて、本当か?
NSAとGCHQは、共同でインターネットの暗号化データを解読する技術開発プロジェクト「Project BULLRUN」をスタートさせ2010年には開発に目処が立って現在、実運用中。GCHQは、マイクロソフトのHotmail、グーグルのGmailをはじめヤフーや、Facebookなどのサービスプロバイダで暗号化されたトラフィックの暗号データの傍受解読技術開発を担当した。GCHQの目標としては2015年までに、前述の企業以外の世界15の主要インターネットサービス企業の暗号データを攻略し、仮想プライベートネットワーク(VPN)に用いられる30種類の暗号化データの侵入・傍受・解読することを目標としている。このようなインターネット上の暗号データを解読する「Project BULLRUN」などや、実際の傍受解読活動は、通信情報軟化計画(SIGINT Enabling Project)の極一部であり、全体としては2億5000万ドル/年を投入しているビッグプロジェクトだ。ここで解読と言っているが、正確ではなく、実際は、暗号化ソフトウェアにバックドア(Backdoor)とかトラップドア(Trapdoor)と言うプログラムを仕込んで生のデータを取得するのだ。
実はウィルスソフトが一番危険なのですが・・・

しかしながら、もはやインターネットを使うことは、企業情報&個人情報漏洩に直結するので、今後の利用については根本的に再考が必要で、何かを隠す、若しくは隠したい事柄がある企業や個人は是非、ビンラディンを見習って欲しい。

米国家安全保障局(NSA)がイスラエル国防軍8200部隊へ傍受情報を提供

2013年09月20日 | 雑感
なんの不思議も事だが、米国家安全保障局(NSA)が、ISNU(The Israeli SIGINT National Unit)に傍受データを提供していた。その覚書(MOU)の中身について英ガーディアンが報道している。
MOUのタイトルは「(TS//SI//REL)MEMORANDUM OF UNDERSTANDING(MOU) BETWEEN THE NATIONAL SECURITY AGENCY/CENTRAL SECURITY SERVICE(NSA/CSS) AND THE ISRAELI SIGINT NATIONAL UNIT(ISNU) PERTAINNG TO THE PROTECTION OF U.S.PRERSONS」。
ISNUの実体は、8200部隊で詳細は、過去ブログをご参照。
イスラエル国防軍の8200部隊

中国国際エネルギーフォーラム開催延期の原因

2013年09月18日 | 雑感
中国国務院・参事官室が主催者の一角をなす「中国国際エネルギーフォーラム」が、11月1日に北京で開催される予定だったが、これが延期となった。この決定は、先週の金曜日午後に国務院参事官室が行った。このフォーラムの開催についての検討会議が、先週月曜日の午前中、国務院で行われ、上部組織と調整の上、最終的な結論を金曜日に出したという事。この決定は可成り迅速に行われたようで、大連のダボス会議に出席していた関係者も、この決定は知らずにいた事からもわかる。

表面的な開催延期の理由は11月に開催される三中全(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)が開催される為としているが、これは事前にわかっている話。本当の理由は、中国石油天然ガス集団(CNPC)に対する中国当局の汚職摘発にあると聞いた。多分、講演予定者が摘発される可能性があるのでは??と勝手ながら推測している。
聞くところによると、中国石油天然ガス集団(CNPC)の副総経理2名を含む4人の幹部が逮捕。その後、今年3月まで同社の会長を務め、現在は、国務院・国有資産監督管理委員会(国資委)主任という大臣ポストにある蒋潔敏氏が更迭された。中国・監察省は、国資委の蒋主任を「重大な規律違反」の疑いで調査中と発表している。この国有石油業界をターゲットにした汚職摘発は、子会社のペトロチャイナにも波及しており冉新権副社長、同社の地質学責任者の王道富、それと傘下企業である昆侖能源の李華林会長が、当局に身柄を拘束され、これまた取調中。

中国当局は周到に準備しており、CNPCの課長級以上の職員のパスポートは没収。つまり海外逃亡出来ない状態。これは芋づる式に身柄拘束や証人喚問という形での身柄拘束の拡大が容易に想起される状況。汚職疑獄の最終的なターゲットは、CNPCの元会長で前中央政治局常務委員・周永康氏との事で、中国政界の最高指導層であるチャイナ・ナイン(今はチャイナ・セブン)である中央政治局常務委員経験者が、当局に逮捕されると、これは文化大革命以来のこと。習近平政権の汚職摘発は、本気も本気、絶対根絶する!と言う強い意志の証左。疑惑は、この元チャイナ・ナインの周永康氏の長男周斌氏の妻の両親(在米)が、CNPCの設備購入に関連して8億米ドルを不正に得たというもので、これを盛んに中国メディアが報じている。明らかに当局が情報を流している。

まあ、中国の石油業界の汚職摘発は、初めてではない。2008年1月25日、シノペックの陳同海前会長が、総額3億元(45億円)の収賄で中国共産党の党籍を剥奪された前例がある。陳同海の父親は陳偉達元天津市委書記(元党中央政法委副書記)で、所謂太子党。何でも職権を乱用して、シノペックの製油所関連施設がある、山東省青島市の杜世成(前党委書記)と自分の愛人を共有する「公共情婦」の関係になりつつ、北京五輪のヨット競技施設会場となった青島の商業開発などで不正な利益を得ていたと言う。金と女とは良く言ったもので、共産党幹部や政府幹部の「腐敗分子」には、愛人が存在し、2002年11月の第16回党大会以降の約5年間に汚職事件で逮捕された党・政府関係者16人のうち14人が愛人を囲っていた。愛人問題で有名なのは陳良宇元上海市党委書記と劉志華元北京副市長などだが、邱暁華前国家統計局長には愛人との間に子供までいる重婚状態で人倫不在とも言われた。

さて、この当時は3億元と言う巨額で「新中国建国以来最大規模の汚職」と報道されていたが、今回のCNPCやペトロチャイナの不正利益の額は桁が違うようだ。石油業界の利権の大きさを物語る。今回のこの勇気ある汚職摘発に対して、習近平のリーダーシップを褒め称える声が一般民衆には多いと言う。よくぞタブーを打ち破ってくれた!というもので、何でも中国民衆は、国営企業、特に石油・ガスなどエネルギー系企業を唾棄するほど嫌っており、そのトップの汚職摘発は、拍手喝采状態。さあ、次は電力業界の汚職摘発か? 請うご期待と言う事らしい。
中国共産党の歴史上、三中全会は経済政策の大転換を意味する意義深い会議であり、この三中全会を目前にして、中国の国内情勢が面白さを増している。

シリアの化学兵器に関する米露の枠組み合意

2013年09月17日 | 雑感
シリアの化学兵器処理について交渉を続けて来たロシアのラブロフ外相、米国のケリー国務長官が、今後のシリア化学兵器問題に対する枠組みを共同発表した。
因みにケリー国務長官は、ヨム・キプール明けの15日、イスラエル・ネタニヤフ首相を訪問し、シリアの化学兵器の枠組み合意と今後の対応について意見交換を行った。焦点は、分散して秘匿管理されている化学兵器の所在についてイスラエル情報局と国防軍に非公式な協力(情報提供)を求めたと思われる。

■枠組み合意内容
Framework for Elimination of Syrian Chemical Weapons
U.S. Department of State, September 14, 2013


■米ロのシリアの化学兵器に関するジュネーブでの会談後、共同会見。
Remarks With Russian Foreign Minister Sergey Lavrov After Their Meeting
U.S. Department of State, September 14, 2013


シリアにおける化学兵器処理に関する今後の概要対応は以下の通り。
(1)シリアのアサド政権は、1週間以内に化学兵器一式の種類、量、場所などのリストを提出させる。
(2)そのリストに基づき国連の査察団が調査を行う。国連査察団の調査は11月中に終了。
(3)2014年中旬までに、シリア国内に存在する全ての化学兵器を国内外の厳重に管理された施設で破棄する。

しかし、推定1000トン以上あると言われる化学兵器を全面廃棄するには、2014年中旬までとは、極めて期間が短く現実性に疑問符がつく。それに反政府勢力は、今回の枠組み合意に反対を表明しており、戦闘がさらに激しくなっているとBBCも放送している。また回収した化学兵器をどのように管理するのか?
オバマ大統領は、地上軍は派遣しないと明言しているが、化学兵器を管理・警護するためには、化学防護部隊を中心とする約75000人規模の人員が必要になるという。それとイスラエルが最も恐れる、反イスラエル勢力に化学兵器を奪取され、攻撃される脅威である。特にロケット攻撃が怖い。イスラエルの近接防空システム「アイアン・ドーム」は完璧にロケットを破壊するだろうが、弾頭に化学兵器が仕込まれていると、空中で拡散する事になる。またアイアン・ドームは、人命や施設に直接影響が無いと判断するとこのシステムは、自動判断にてロケットを破壊せずに着弾させるのだ。このロケットにもし化学兵器が装填されているとすると、気象条件にもよるだろうが、直接的な被害を及ぼし兼ねない。
イスラエルが化学兵器の攻撃を受けた場合には、確実にエスカレーションしてレバノン、シリアを巻き込んで戦闘状態に陥る可能性が高い。これだけは避けねばならない。イスラエルにとってサリン、ホスゲンなどの第二世代の化学兵器は、ナチス第3帝国が開発した兵器で、アウシュビッツのチクロンBを容易に想起させる。これは確実に民族の記憶を呼び覚ます。
この辺りはケリー長官がネタニアフ首相と話をしただろう。ケリー長官は「アサド政権は、化学兵器を反政府勢力が届かない場所に確保している考えている」との意見を表明はしている。しかし、イラク戦の時と同じようにイスラエル参戦を押し留める事が果たして出来るだろうか?

それとシリアの化学兵器に関しては、完全に政府軍が掌握しているとは言い切れない傍証があるようだ。ロシア側はこの辺の情報を入手していると思われ、仮に政府軍の化学兵器を完全に掌握・無力化することに成功しても、反政府軍が化学兵器を奪取している可能性は否定できず、今までの化学兵器による攻撃の全てが政府軍はとは言い切れないのが実情と聞く。

それとおまけ。
キプロスのIoanis Kasoulides外相は、地中海東部でミサイルの試射を実施した国は、対シリア軍事行動に加わる事はないと発言。ミサイルとは、当然の事ながらイスラエルの弾道弾迎撃システム用の標的ミサイル・Silver Sparrowのこと。Kasoulides外相は、キプロスのイギリス空軍基地「RAF Akrotiri」にも言及し、対シリア軍事行動には使用しない、との保証を得ているとも。
それとシリア政府は国連にCWC (Chemical Weapons Convention) への加盟申請を提出し9月15日に承認されている。
だが、東地中海に展開する米イージス艦隊には撤収命令は出ておらず、今だシリア近海を遊弋中。

以下は参考です。米議会調査局のシリア関連報告書URLです。
Syria's Chemical Weapons: Issues for Congress
CRS Report for Congress, September 12, 2013. R42848


Armed Conflict in Syria: Background and U.S. Response
CRS Report for Congress, September 6, 2013. RL33487


Syria: Overview of the Humanitarian Response
CRS Report for Congress, September 4, 2013. R43119

北極圏にロシア北極軍が常駐し防衛力を強化

2013年09月16日 | 雑感
ロシア軍が、北極圏での哨戒活動を本格化させる為、北極圏に海軍艦艇、空陸部隊を常駐化させる。
その最初として大型原子力巡洋艦「ピョートル・ヴェリーキー」が海氷で封鎖される前に北極圏航路の巡行に出ている。
2009年3月、ロシア政府は、2020年までに北極を主要な戦略的資源基地にし、北極圏を担当する北極軍を駐留させる方針を堅め、2011年~2015年の間に北極圏におけるロシア国境を確定させ、北極圏航路の安定航行と、エネルギー資源の探査・輸送を確実に実施展開するための基盤を構築するとしていたもの。
北極軍は、国境防衛と北極圏の安全確保を主要任務とする陸海空統合部隊で、担当する領域は広大。
過去ブログ「ロシアの北極域での防衛力強化 ~ロシア北極軍~
     「北極海におけるロシア海軍の動向と原子力発電プラント船&原子力機関車

ロシアは、北極圏航路の安定海路にする為、ロシア北部のナリヤン・マル市に北極圏専門の航空レスキューセンターが開設され運用を開始した。航空レスキューセンターは、ロシアの主権内の北極圏で発生した緊急事態に即応する目的で創設された。レスキューセンターは、北極海航路や沿岸にある石油/ガス掘削プラットフォームやガスパイプラインの監視も行う。ロシアの計画では、2015年までに10の航空レスキューセンターが開設される予定だ。また極地観測衛星「北極」が運用を開始すると極地でのナビゲーション、安全監視レベルが向上するだろう。

中国の分散エネルギー、これからは天然ガスか

2013年09月09日 | 雑感
休暇ではあるが、品川で新幹線を下車して、三菱重工、ソニー、電通国際情報サービスを訪問して情報交換を行った。有益だったのは、三菱重工での話。

 ・中国における分散エネルギーは太陽光&風力発電を中心に展開してきた。現状は沿海州から内陸部に向けて様々なプロジェクトが立ち上がり展開中。
 ・但し、既設の風力は殆ど回っていないし、太陽光パネル企業は倒産しており完全に失敗。
 ・今、将に力を入れているのは天然ガス発電による送配電網を必要としない分散エネルギー。
 ・シェールガス&オイルは、水が希少な中国では無理がある。軽水炉にしても水が必要で沿海地域では大丈夫だろうが、内陸部向けの原子力は別の方式を考える必要あり。
 ・注目するのは高温ガス炉か。トリウム溶融塩炉もレアアースが関係するので開発は続けるだろうと推測している。
 ・中国では、スマートグリッドとかシティとか分散エネとか、様々なプロジェクトが立ち上がっているが、地方政府のプロジェクトは要注意。特に内陸部のプロジェクトには、日本から観て判然としないリスクがある。私見だが、地方政府のプロジェクトは、避けた方が良い。やるならば中央政府の関与と体制が明確なプロジェクトに限るべきだ。

                        

話を聞いていて、感じた事は、中国は相変わらず石炭が中心であるが、やはり鉄道などでの石炭輸送が問題。この石炭輸送を効率化でなく最適化できれば、中国国内の物流網に与えるインパクトは天文学的で、十分にビジネスになるだろうと言う事か。

シリア情勢 徒然なるままに ~トルコとイスラエルの動き~

2013年09月09日 | 雑感
9月8日午前、シリアから国籍未確認機がトルコ国境地帯に接近した為、トルコ空軍のF16機×6機がスクランブル。
スクランブルしたF16は、トルコ空軍・第2戦術航空団所属で、同航空団は、第181航空隊と182航空隊の2個飛行隊で構成されている。この戦闘機部隊は、米軍のパトリオットが配備されているディヤルバクル県に所在しており、シリア空軍機が国境地帯に進出した場合、躊躇なく断固として攻撃排除する態勢を崩していない。つまりトルコ空軍機は、完全武装でスクランブルし必要に応じて攻撃対処する。

トルコに配備されているパトリオットは2サイトで、1サイト当たり発射機は6基で、総配備数は12基。実戦運用は米軍400名が行う。今回のスクランブルは、トルコ空軍の早期警戒システムが探知しているが、それより早くマラトゥヤ県のキュレジッキ地区チャルシャク高地(標高2100m)にあるミサイル防衛レーダー基地のXバンド・レーダー(AN/TPY-2)が、シリア空軍機離陸と同時に警戒情報をトルコに駐屯するNATO軍とトルコ軍に提供している。トルコ軍も、米軍によるシリア攻撃間近と言う事で、遅ればせながらシリア国境のハタイ県シュルフ山頂に地対空ミサイルを展開。

(※参考:今回シリア攻撃に加わると想定されている米イージス艦は、大気圏外を通る長距離弾道ミサイルに対処する為、常時2隻程度が地中海に展開している。トルコに配備されているパトリオットは、短距離ミサイルとロケットからトルコを防衛し、THAAD(Terminal High Altitude Air Defence)が中距離ミサイルの脅威を排除しつつ、イージス艦が長距離弾道ミサイルを迎撃する。)

因みに同じ8日、シリア空軍のスホイ24×2機が地中海を移動し、キプロスの英軍基地に接近し偵察行動を行った。英空軍はトロードス空軍基地からタイフーン戦闘機をスクランブルさせている。キプロスには、最近何かと話題になるGCHQの傍受サイトがあり、イギリス戦闘部隊がキプロスから撤退してもGCHQは現状を維持する。
トルコは、シリア国内戦において化学兵器が使用された事を受けて、化学兵器防護資材の調達を増加させている。トルコは既に2008年にCBRN防護機材を16万2000セット(約6000万ドル)で調達しているが完納は2017年である。この為、トルコ軍はこのCBRN防護資材調達をの前倒しする。現在トルコ陸軍は、CBRNラボ施設一式の受領確認試験を進めている状況で、シリア国境に展開している機甲部隊を含む地上部隊を支援する為に、速やかに前線配備したい意向。トルコ陸軍は、トルコ南東部には、陸軍兵1万5000人、戦車・歩兵支援戦闘車や装甲輸送車など430台、155ミリ榴弾砲を含む148の戦闘火力を配備している。

イスラエルであるが、知り合いに聞くと、今の時期はホリデーシーズンで1年で一番良い季節らしい。既にイスラエル市民に対してはガスマスクが配られており、イスラエルは万全を整えているので心配ないとネタニヤフ首相、ヤアロン国防相、ガンツ参謀総長が言明している。イスラエルでは男も女も徴兵され当然ながらNBC訓練は受けるので、ガスマスクと付随装備を単純に配るだけで良い。日本ではこうは行かない。
シリア攻撃が現実味を帯びる中、イスラエルでは例年キリスト教徒(クリスチャン)のカンファレンスがエルサレムで開催される。「祈りの家」のトム・ヘス師のカンファレンスや、来週は、国際クリスチャンエンバシーの「仮庵の祭カンファレンス」が開催される。このカンファレンスには毎年5000人以上の海外参加者があると言うことで、シリア情勢が緊迫するが、関係者は、参加者は昨年並みと考えているとの事。予定通り恒例のパレードも実施する。

国家首脳が安全を保証している事もあるが、警戒するにこした事は無く、イスラエル国防軍は、6個中隊しかない近接防空システムのアイアン・ドームをエルサレムに1個中隊を配備した。アイアン・ドーム(פַּת בַּרְזֶל)は、Counter-RAMに分類される防空システムで、Rafael Advanced Defense Systems Ltd.社製。このアイアン・ドームは、2011年年3月末に、イスラエル空軍の第947大隊の2個高射中隊を、それぞれベエルシェバとアシュケロンに展開させたのが初めての実戦配備で、初戦果は、4月7日ガザ地区から発射されたBM-21ロケット弾の撃破。迎撃したのはアシュケロンに展開していた中隊。
優れもののアイアン・ドームは、着弾した場合の人的・物的被害の有無など脅威分析を行って迎撃する。ただの野原に着弾すると分析されると、アイアン・ドームはそのまま着弾させるのだ。アイアン・ドームのインターセプター(迎撃体)は“タミル(Tarmis)”と命名されており、アイアン・ドーム1個中隊は、それぞれ20発のTarmisを備えた発射機3基と、対砲・対迫レーダーELM-2084(フェーズドアレイ、Sバンド)、射撃管制ユニットで構成される。このアイアン・ドームが配備されれば、エルサレムの防空体制も準戦時体制並みに向上するので、安心してパレードが出来ると言うわけだ。

イスラエル軍は、シリア国境に精鋭ゴラニ旅団を戦闘体制において警戒偵察を強化しているが、このゴラニ旅団では、旅団長自身が関与した武器窃盗事件が発覚しており、イスラエル軍の腐敗が問題になって「喝」が入ったので、襟を正して職務遂行するだろう。因みにゴラニ旅団の指揮官の20%がグリーンライン(占領地)近傍に居住し、11%がキブツ&モシャブに住む。日本人がこの数字を見ても何とも思わないだろうが、これはイスラエル軍の変質を示すもので、見逃せない小さな変化です。

気仙沼の 「第18共徳丸」 が解体される~陸前高田の体育館とオリンピック招致~

2013年09月09日 | 雑感
東日本大震災の津波で、気仙沼港に寄港中だった儀助漁業(福島県いわき市)の「第18共徳丸」が内陸部に流され打ち上げられた。第18共徳丸は、全長60メートル、排水量330トンの大型巻き網漁船。
                  
これでは、大きすぎて撤去しようにもできない。
気仙沼は、陸前高田や大槌町とは違い、市役所など行政機関が津波の被害から免れている為、震災の記憶を伝えるモニュメントとして市役所としてはこの「第18共徳丸」を保存したい意向。市長や行政マンの気持ちはわかる。しかし、船主は複雑だろうなと思う。現地に行けばわかるが、周辺地域は広大な更地で、その中にポツンとこの船だけが鎮座している状況。結局、市民へのアンケートで解体が決まった。
自分が気仙沼市民だったらどのような判断をするのか? やっぱり解体だな。市民の判断は間違ってないと思う。
        
しかし、震災の記憶をモニュメントで後世に託すると言う事に反対しているわけではない。少なくとも陸前高田の体育館はモニュメントとして後生に残し託する価値はあったと思う。市役所やMAIYAまで残せとは言わないが。
          
今年8月、「陸前高田 くぎこ屋」の釘子さんにお世話になったが、陸前高田周辺では、土地の嵩上げの工事が進み、市有地と思われる山の木々が大規模に伐採されていた。そこからの土を嵩上げに使うのだ。旧市街地に重機がひしめく様はある種壮観だが、2020年のオリンピックが東京に決まり、都内の老朽化したインフラや国土強靱化関連投資が本格化すると、陸前高田をはじめとする被災地復興は遠のくこと必至だ。

関東大震災90周年のとある週末

2013年09月08日 | 雑感
知らなかったが、今年は関東大震災90周年だという。
          
どおりで都市災害やら生物化学防護というテーマで講演依頼が来る筈だ。いろんな所で同じような講演会やらが開催されると人手不足と言う訳か~
どおせ首都圏限定の匿名ボランティアでやるので、土日であれば話はする。しかし今回はシリアの化学兵器使用が国際的に話題となっている事もあり、実際のガスマスクなどを用意して、より実践的な内容にして欲しいと言うが、他に専門家(自衛隊や消防・警察)がいるだろうと指摘すると、NPO理事の彼は駄目だと言う。

「その道の専門家と言う者は、その分野に特定した話しか出来ない。それに国内限定では今回の講演的では弱いね。何せ今回の聴衆には猛者連がいるから。それと、あなたの書いたものを読んでいるが、シリアの情勢にも詳しいし、ハーバーボッシュから現代のNBC戦の現状について医化学的な見地も交えて話せるのは居るようで居ないんだよ。」
「適当に書き連ねているだけ。シリア情勢に詳しいのは、知り合いが現地にいるから。適任者を紹介するから、今回は勘弁して。」
「いや、お願いしたい。なんなら、あなたが断れない人から依頼が行くようにしようか?」
「・・・・・」

仕方がないのでヤル事になったが、場所は意外と近い。ので走って行く事にした。
そうだ、途中に陸軍の被服廠跡があるので立ち寄ってデジカメしよう。この場所では実に3万8000人の方が亡くなっている。
  祈り。(冥福)
          
失敗した! タオル忘れた~汗ダクダク。
流石にジョギング気分じゃまずいね。気の緩みと言うか、今日は妙に緊張感がない。しかしタオルないと熱いな~着替えるにも着替えられない・・・こんな状態の時に、件の彼氏が来る。
「なんという格好で来るの???」
何という格好もねえもんだ。こちトラ休みつぶして無給でやるんだからイイでしょ!と思うが~・・・・・・「ねぇ、タオルない?」

「着替えは?」
「あるよーっ、ほら」と言いながら、汚い山登り用のリュックサックからズボンとシャツを出して、ピラピラさせる。
「その格好でしゃべるの? ベルトは? 靴下はジョギング用?」

実は私服は余り持っていない。また髪の毛もボザボザになってきているし、そもそも服装に頓着しないので、こんな微妙な会合の場合には、何着ていいのかが分からなくて困る事が多い。
「いいじゃん。ボランタリーだし、休みだし。それに聴衆は猛者連なんでしょ」
「違う。猛者と言うのは、それなりに影響力のある人たちと言う意味。走ってこれるんだったら戻って着替えてきたら?時間あるし」
「猛者って、NBC経験者を言わねぇか? それに戻ったら、帰ってこないと思うよ。アマゾンに注文したエズラ・ヴォーゲルの『小平』が届いている頃だから」
「ああ、例の『Deng Xiaoping and the Transformation of China』だね。翻訳本が出たか。」
「スラスラ英語で原著名が出てくるのは流石ね。しかし、齢80にして900ページの大著を出すなど凄いね。キッシンジャーの『On Chaina』も500ページで88歳だしな。」
    

さて、講演そのものは、きっちり2時間やった。
質問を受けたくないので、8秒装面のパフォーマンスとか、さっき撮った被服廠のデジカメなど見せながら、時間調整しつつ、適当に盛り上げて無事終了!
自分に「お疲れ様」と言って、速やかに退却。来た時と同じ、汗臭いジョギング姿に80秒で変身。さーて帰るか~、
そうだ。浅草に寄っていこう。我ながら名案だ。今度こそメロンパン食べなきゃ。
            
と、こんな時にまた、件の彼が来る。
「あれっ、着替え早いね。もっと話を聞きたいとおっしゃっている方々いて、質問もあるようだから、今からの食事会に出て。好きなビールも飲み放題だよ。」
「ダメ、ダメ。酒とタバコと賭け事はやらないのよね。」
「あれ? 前はハイネケンを用意しとけって、浴びるほど飲んでいたよね」
「知っているでしょ、若い頃に体をチョー酷使したので、今じゃ内臓も、腰も、膝もボロボロよ。最近は眼も見えないしね。帰って風呂入って寝る」
「ああ、それじゃ弁当、持って帰ったら~コレコレ。良く出来てるでしょ」
「これは・・・流石に食べれないでしょ・・これ・・・しかし良く作ったな~っ。ケイジツ品だ。不細工な奥さんが作ったの?」
(ニコニコしながら)「そうそう」
     
「残念ながら、この通り不細工な格好なので持って帰れない。食べる前にスマホかなんかで撮って送って。FacebookでもMailでもOKだから、じゃぁ」
「本当に帰るのか?」
「んん、花月堂に行く。メロンパン食べに。」
   

シリア情勢 徒然なるままに

2013年09月08日 | 雑感
シリア情勢について徒然なるままに

シリア軍はマスタードガス、サリン、VXガスを含む様々な化学物質(約1000トンを保有。投射兵器は、化学兵器弾頭搭載可能な地対地ミサイルのスカッドB、スカッドC、SS21を保有。これらの弾頭は100または300リトルの毒ガスを搭載可能。後述の記報告書にある通り、シリア国防省傘下のシリア科学研究調査センター(SSRC)が化学兵器を管理しているが、実戦で運用するのは、シリア陸軍第450師団で、同師団は、全てアラウィ派の将兵で構成されている。極めてアサド政権に対する忠誠心厚い部隊として有名。

第450師団や第155スカッド旅団などはシリア攻撃に備えて地下施設への移動など欺瞞行動を開始。現地ではイスラエル情報機関と空軍偵察機&衛星が追跡している。またシリア国内ではイスラエルの長距離偵察部隊と在ヨルダンの海兵隊偵察部隊や特殊部隊が活動中であるが、昨年来、イギリスの第23SAS連隊、及び現役の22SAS連隊が積極的に活動中。イギリス議会は参戦を否決しているが、米仏など関係国は、湾岸戦争時のブラボーツーゼロ並みの活躍を同部隊に期待している。

EUのヴィリュニュス外相会議で、米国の対シリア軍事行動について討議したが、満場一致の結論は出なかった。他聞なれど外相会議の総括声明には、シリア軍による8月21日の化学兵器攻撃を非難し、シリア政府の責任を追及する文言は盛り込まれていたものの、対シリア軍事作戦についての言及はない。米連邦議会では、9月3日の上院で審議され決議案が出た。
To authorize the limited and specified use of the United States Armed Forces against Syria

上院に続き9月4日、米下院外交委員会においてヘーゲル国防長官、デンプシー統合参謀本部議長、ケリー国務長官が出席し公聴会が開催。
メディアで既報につき、公聴会記録全文のみの掲載。
Syria: Weighing the Obama Administration’s Response U.S. House Committee on Foreign Affairs, September 4, 2013

シリア政府と良好な関係にあり中東域での紛争を望まない日本は、本音は冷ややかだが国際社会向けには、化学兵器使用に関して非難声明は出さざる終えない。こんな中、オバマ大統領と安部首相は、9月3日に電話会談をおこなった。型通りに「シリアの化学兵器使用は国際規範の重大な違反であり、容認できないとの立場で一致し、国際社会による対応について、引き続き緊密に協議する」ことを確認している。
Readout of the President’s Call with Prime Minister Abe of Japan The White House, September 3, 2013

■参考1:
オバマ大統領は8月31日、シリア政権に対する軍事行動の可能性について発言し、軍事力の行使のために米国議会の承認を求めるとしている。
Statement by the President on Syria The White House, August 31, 2013

■参考2:米議会調査局によるシリアの化学兵器関連の報告書。
Syria's Chemical Weapons: Issues for Congress CRS Report for Congress, August 20, 2013. R42848

■参考3:米情報コミュニティの情報評価
大統領声明の前日、8月30日、シリア政府による化学兵器の使用に関する米国政府調査報告書を発表。
Government Assessment of the Syrian Government’s Use of Chemical Weapons on August 21, 2013 The White House, August 30, 2013

被害地域の地図
Syria: Damascus Areas of Influence and Areas Reportedly Affected by 21 August Chemical Attack

今回の情報評価について、CIA元副局長のジョン・マクローリンは、「情報コミュニティーでは徹底的に議論されないかぎり『high confidence(強い確信)』と言う表現は使わないと」と発言しており「非常に強力な評価」であるとしている。また国家情報長官室(ODNI)の元情報分析官トマス・フィンガーもマクローリンの発言を敷衍し、直接証拠がなく、状況証拠が多いことは弱いが、一連の情報は筋が通っていて信憑性が高く、今回の情報評価には、それなりの説得力があるとコメントしている。
しかし、直接的証拠が無いことは、過去の致命的な過ちを繰り返す事態を容易に想像できるのは自分だけではないだろう。意図的に情報評価を捻じ曲げる背景も勘案すると、両名のコメント・発言のポイントは、情報評価自体に論理的な矛盾が無く推論的に間違っていないといった類の評価である。
つまり客観的事実について評価していないと言う致命的な欠陥がある。英仏やシリア人権監視団などの犠牲者数は、それぞれ異なっているし、国連の調査報告がもし出ることがあれば、また数字は異なるだろ。因みにイギリスは犠牲者1429人、シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)は、502人としている。またロシアが主張するように反政府勢力がサリン攻撃を仕掛けたとの情報もあり錯綜している。プーチン大統領の「はっきりとした証拠が提示されればシリア攻撃を容認すると発言している背景は、良く理解出来る。
イラクの時は、意図的に情報評価を捻じ曲げたと考えているが、今回はイラク戦争と同じ轍を踏みたくないと推測するので、情報分析にはそれなりに力点を置いた様子が報告書の行間から読み取れる。

■参考4:英合同情報委員会(JIC)の情報評価

■参考5:フランスは対外治安総局(DGSE)と陸軍G2をメインとする軍情報部が合同で作成した調査報告をシリア問題を審議する仏議会に提出。ダウンロード可

※注:ユタヤロビーについて
現在、在米ユダヤ人組織AIPAC(American Israel Public Affairs Committee)が先に米議員に対して積極的なロビー活動を始めているが、選挙を控えている議員は、国内世論も無視できず、旗幟を鮮明に出来ない向きも多いようだ。これまで、AIPACのロビー活動が効を奏しない事が、少なくとも2度あった。(レーガンのサウディへのAWAC売却問題とパパ・ブッシュのイスラエルの1991年のイスラエルの債務保証の凍結問題)。過去の経験を教訓としてユダヤロビーの力を結集して、その後のイスラエル支持を強固しているが、ミアシャイマーとウォルトによる『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』にもある通り、米国内では親イスラエル政策への疑問が渦巻いているのも事実。
今回は、民主党支配の上院が承認し、共和党支配の下院が拒否する可能性ありで、米連邦議会とイスラエルとの関係変化に注目したい。私見ながら共和党議員らのイスラエル支持派に変化が生じる可能性があるだろうし、共和党等の動き如何では民主党政権が長期に続く可能性もあると感じている。