阿部ブログ

日々思うこと

首都圏における核事故の可能性と事業継続計画(BCP)

2009年10月28日 | 日記
米空軍スペース・コマンド の発表によると8月31日、ノースダコタ州のマイノット空軍基地からミサイル部品を運んでいたトレーラーが横転する事故があった。幸いなことに核弾頭部分は運搬していなかった。

このような事故は昨年7月にも起きており、ロケットブースターを輸送していたトラックが砂利道で脱輪した事故が発生している。また2007年9月には核弾頭を装着したままの巡航ミサイル6発を空輸すると言うミスも発覚している。核に係わる事故は米軍再編による部隊異動もあり、今後も起る可能性が高い。

我が国においても核物質の輸送に関する事故は、1972年から99年の間で9件発生している事実はあまり知られていない。更に神奈川県が全国で1番核燃料輸送が多い県であることは更に知られていない。

これは横須賀に日本最大の核燃料加工会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパンの工場があるためで、この工場では全国の原発で使用する核燃料の半分にあたる750㌧U/年を成形加工している。この工場からジルカロイ合金に被覆された核燃料棒を積んだ輸送車が、3日に1度の頻度で全国の原発に輸送されている。

原子力資料情報室のシミュレーションによれば、交通事故により横転して核燃料物質が漏洩・大気中に放出されれば、幅2km×長さ10kmの範囲は約1時間で放射性物質に汚染されるとしている。

首都圏における核関連施設は、東芝の原子力技術研究所(川崎浮島)の臨海実験装置(熱出力200kw)と同研究炉管理センターの原子炉(100kw:廃炉)、及び立教大学(横須賀)の原子炉(100kw:廃炉)がある。これらは原子力災害対策特別措置法の適用施設であるが、この法律の適用外施設としては、川崎市麻生区に旧武蔵工業大学の原子力研究所と日立製作所の原子力事業部の王禅寺センター(廃炉)の2つの施設が現存する。

また規模は小さいが東京都内にも核燃料を管理する東京工業大学(目黒)の核燃料貯蔵管理室がある。BCPと言うと地震やと致死性ウィルスの蔓延などが想定されるのが一般的だが、政治経済の機能が集中する首都圏でも東海村の臨界事故以上の核災害が起こる可能性を想定して、計画を立案し対策を施す必要があることは十分に認識されなければならない。

暗号の2010年問題

2009年10月19日 | 日記
『ダビンチ・コード』『悪魔と天使』など話題作で有名なダン・ブラウンのデビュー作は『パズル・パレス』と言うフィクション。この本では世界最大のコンピューティング・リソースを有すると言われる米国の国家安全保障局(NSA)を扱っており、解読不可能な暗号とNSAが誇る最新の暗号解読システムを巡る物語。このNSAが「暗号アルゴリズム2010年問題」(暗号2010年問題)の隠れた主役である。
暗号2010年問題とは、米国立標準技術局(NIST)が、現在用いられている公開鍵暗号や共通鍵暗号などの暗号アルゴリズムについて、解読技術の進展、CPU性能の向上などにより、中長期的にその安全性を確保する事が困難と判断し、2011年以降、該当する暗号アルゴリズムの使用を禁止する決定をした事に起因する。殊、暗号に関してはNISTがそのデファクトスタンダードであり、NISTの動向にあわせて欧州・日本など世界各国がそれに追随するなど圧倒的な影響力を誇っている。
民間企業でも同様で、特に金融機関はNIST推奨の暗号アルゴリズムを長年採用してきたが、2011年以降、NISTのお墨付きがなくなる暗号から、NIST推奨の新しい暗号への変更を余儀なくされている。昨今の厳しい経済情勢の中、新たな情報投資が必要となるため、民間にとっては暗号アルゴリズムの更新と言う微妙な判断を迫られている。さて、この問題の裏には前述のNSAの存在がある。
それは、1970年前半、DESと呼ばれる暗号策定の際に、開発元であるIBMとNSAの交渉の結果、当初のキーサイズである128ビットから56ビットに変更する事に決定した。これはすぐさま論争を巻き起こした。曰く、短くなったキーは、民間企業間の情報の盗み取りを防ぐには十分だが、NSAの暗号解読者には頃あいの長さだとか、NSAによるDESの暗号化プロセスで最重要な「S-Box」と呼ばれる部分を改変し数学的な「隠し扉」を仕掛け、NSAは造作もなく暗号を解読できる、など様々な指摘がなされた。これでは2011年以降NISTが推奨する暗号アルゴリズムについてその安全性を不安視するのは当然であり、IBMがNSAと密室交渉するならば、マイクロソフト、オラクルなども交渉しているだろうと考えるのは至極当然の事である。
暗号は、社会インフラを支える様々な情報システムにも組込まれており、暗号の脆弱性につけこんだ、電力などインフラの破壊・擾乱を狙うサーバーテロには、十分な配慮と対策が必要である。