阿部ブログ

日々思うこと

戦略的拒絶地域 と GDR (国防計画見直し)における「アクセス拒否」

2011年11月12日 | 日記
11月8日のブログに「トッド・フランク法と紛争鉱物、及び米統合軍(AFRICOM)の創設」を書いたが、今回は米国防省は「4年毎の国防計画見直し」(Quadrennial Defense Review:QDR)と「戦略的拒絶地域」との関連について書いて見たい。

米軍が、アフリカ全域を担当する統合軍(AFRICOM)を創設し、特に①コンゴ民主共和国(DRC)、②ギニア湾、③ダルフール、④ソマリアを重点的に偵察・監視にある事を書いた。この中で「戦略的拒絶地域」はDRCである。
DRCは南アフリカと肩を並べるほど、希少資源が集中している地域で、この「戦略的拒絶地域」であるDRCを守る為に米国は、あらゆる手段を行使して他国の介入を阻止するだろう。

この「戦略的拒絶地域」について参考になりそうな文書がある。それは米国防省が今年2月に提出したQDRである。それと5月27日に公表された「国家安全保障戦略」も参考になる。
この「国家安全保障戦略」によりオバマ政権の国家戦略が明らかになったが、ブッシュ政権時代とは大きく趣を異にしている内容だ。

「国家安全保障戦略」と言う文書には、深刻な財政赤字、科学技術、医療、教育、移民など現代米国が抱える様々な問題課題を含む包括的な内容を含む文書であり、注目すべきは可能限り軍事的衝突を回避する為、軍事・情報機関はもとより、国際機関等を活用して武力行使の必要性を回避するとしている。この国際機関等には、米国民主主義基金 (NED:National Endowment for Democracy)やフリーダムハウスなどNGOも含まれる。これらNGOの準軍事工作機関的な活動については、今は書かないが後日書きたい。が、これだけは明示しておきたい。米国の認識は、もはや単独では、現在の国際情勢に迅速に対応する事が極めて難しい環境となっている事。この為には軍隊のみならず文民組織の支援も全面的に受けた上での統合的な体制でないと、様々な危機に対処できないという認識は、2010年QDRにも反映されている。

QDRは、1996年の「軍隊の戦力構成見直し法」により、国防計画・政策を全体的かつ包括的に見直し4年毎に連邦議会に報告される文書で、今後の国防政策/方針を知る上での基本文書である。
さて、2010年版QDRを一言で言うと『バランス』である。これはブッシュ政権から継続して国防総省の親分であるゲイツ国防長官がQDR発表時にも述べている通りで、伝統的な軍事脅威への対応準備と、イラク、アフガニスタンなどでの非正規戦の戦闘能力とのバランスなどの見直し全体最適を行う事が必要との認識であり、この為F-22の生産を正式に終了させ、C-177輸送機調達、及び次世代航空母艦の調達を延期するなど軍事資源の再配分を実施している。

さて、2010年版QDRで注目すべきは「アクセス拒絶」。それとこれに対となる「サイバー戦」の2つ。
「アクセス拒否」とは敵対国家、及び敵対勢力による「戦略的重要地域」、及び「戦略的拒絶地域」への戦力展開、抑止し、必要に応じて戦力を無効化・排除する為の軍事・準軍事行動をいう。

QDRでは、deter and defeat aggression in anti-access environments と表現されている。これはアクセス拒否環境下における攻撃抑止と打破とでも訳すのだろうが、QDRにある「アクセス拒否/地域拒否」(anti-access/area-denial)能力については、米軍の軍事能力を高めつつ必要な態勢構築が必要であり、具体的には、海外遠征打撃能力の向上、特殊部隊支援潜水母艦などを含む対潜水艦能力、中東、インド洋、中央アジアなど前方展開基地の抗湛性向上、宇宙空間資源の利用促進と安定的なアクセス確保及び緊急対処能力、C4ISR、敵対国家勢力のレーダー、各種監視システムシステムへのサイバー戦を含む積極攻撃、米軍の持てる戦力の効率的確な統合作戦力の構築など盛り沢山だ。

また将来の想定敵は、陸上、航空、海洋、宇宙、サイバー空間のフル・スペクトラム支配を競う能力を開発/保持するとしており、特に「サイバー戦/対サイバー戦」に対処する為、第704軍事情報旅団陸軍ネットワーク戦大隊などに代表されるネットワーク侵入と論理爆弾設置、対衛星兵器と支援システムの侵入・破壊、それと「コンピュータ・ネットワーク防衛」(CND)と呼ばれる陸戦システム、海洋、航空、重要インフラなどへ対サイバー戦能力を高める為の投資拡大、それとサイバー戦に係わる組織体制の改善や、CIA、FBIなど関連する連邦機関省庁、関連国防、情報通信企業、同盟国との協力支援関係の拡大など、来るサイバー戦で勝利する為の包括的アプローチの必要性とサイバーコマンド部隊の拡大や民間人も含めた教育訓練についてもQDRは記述している。

要は、敵対勢力の「戦略的拒絶地域」への「アクセス拒否」する為には、陸・海・空・宇宙・サイバースペースと言うフル・スペクトラムで、米国の持てる能力の全てをかけて殲滅する。つまり手段は選ばないと言う訳だ。

但し、911以降、10年近くにわたって戦争状態が継続し、財政赤字が深刻の度合いを増すなかで米国債の格付けが下げられ、国内経済の立て直しの為にTPPなどブロック経済を指向しているかのような時代錯誤の政策をうたなければ成らない程、米国の国力を削いでいるのは確かである。
現状では、米軍の軍事的優位は圧倒的ではあるが、将来にわたってそうであるとは考えて鋳ないことがQDRを読むとわかる。
米国は自国に必要不可欠な資源・エネルギーを確保し、地政学的に重要な地域をコントロール化に置くためには、当該地域を「戦略的拒絶地域」として「アクセス拒否」して、将来現出するであろう次の戦争での勝利を確実にすると言う強烈な「国家の意思」をヒシヒシと感じるし、目的を完遂するだろう。

「山猫は眠らない」と言う海兵隊狙撃手・ベケット上級曹長の人気シリーズの最新DVDが出た。シリーズ4作目「復活の銃弾」だが、既にベケット上級曹長は引退しており、その息子がコンゴや周辺国での兵器横流し&売買する悪徳軍人の犯罪を摘発すると言うもの。
コンゴなど中部アフリカの状況を垣間見るには良いかも知れない。少年兵の話をも織り込まれているし。

何はともあれ、新たなヒーローの誕生だ~海兵隊狙撃手ベケット軍曹。彼も「アクセス拒否」の為に大活躍するのだろう。

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