8/27(金) 13:30Medical DOC
参照記事
https://news.yahoo.co.jp/articles/965d78e361b994148f6b95419281c90a075448fe
吉良 文孝先生
東長崎駅前内科クリニック 院長
針生検は、医師も患者も嫌がる検査
編集部:
肝臓の検査って、普通は血液検査か超音波検査ですよね?
吉良先生:
「健康な人」という前提で、肝臓の病変の“兆し”を簡易に洗い出すとしたら、血液検査か超音波検査が有効です。これら両方の検査で肝硬変や脂肪肝の疑いがあったら、CTやMRI検査にかけてみます。
編集部:
「エラストグラフィ」という検査があると聞きました。
吉良先生:
エラストグラフィは、“肝臓の硬度を測る”検査の総称で、メーカーによって測定方法や機材、機能に違いがあります。例えば「フィブロスキャン」という機器は、肝臓の硬さに加えて脂肪の量も“数値化”してくれます。具体的な数値は検査の説得力をもたせ、正確な診断につながるというわけですね。
編集部:
肝臓の硬さと脂肪の量から、なにがわかるのでしょうか?
吉良先生:
肝硬変と脂肪肝のリスクです。肝硬変は、正常な肝臓が機能しない別の組織へ置き換わってしまった病気です。他方、脂肪肝は、脂肪が邪魔して肝機能を低下させてしまった病気です。また、脂肪肝から肝硬変や肝炎に至るケースもあります。さらにいうと、肝臓の硬さから、将来的な肝硬変のリスクも推測できます。
編集部:
そのような機器がない場合、手術で組織を取り出して生体検査をおこなうと?
吉良先生:
肝臓に刺した針で組織を取り出す「針生検」という方法があります。しかし、患者さんの負担が大きいため、積極的におこなわれているという印象ではないですね。理由としては「針生検のできる医療機関は入院設備のある病院に限られていること」や「患者さんが痛がってなかなか受けていただけないこと」、「超音波検査や採血検査でもある程度の病状把握ができること」などが挙げられます。またNSAH(ナッシュ)といわれる疾患の場合は、「疑わしい患者さんほど脂肪が邪魔して針を肝臓まで届きにくくさせていること」も理由の1つです。
数値による評価であれば、納得は得られやすい
編集部:
脂肪肝や肝硬変の「確定診断」は、どの段階でわかるのですか?
吉良先生:
決まりごととして、針生検をもって確定診断が得られます。しかし、健康診断などの数値と超音波検査の結果から、「ほぼほぼ、肝硬変や脂肪肝だ」ということが推し量られれば、そのまま治療に進む意義はあります。最終的には患者さんに決めていただきますが、針生検を経ないことの方が多いですね。肝臓の異変に対する “ご自身の心当たり”などもあるのでしょう。
編集部:
経験豊富な医師にとっては、針生検にかけるまでもないと?
吉良先生:
検査結果が数値で表れれば、医師の評価はもちろん、患者さんも納得されるのではないでしょうか。「痛いけど直接的で確実な判断」か「痛くないけど間接的で数値による判断」かのいずれかを選ぶ場面で、実質、後者が選択されているという印象です。
編集部:
いずれにしても、肝臓の状態が悪化しているのは事実ですからね。
吉良先生:
それに加えて、針生検は何回も繰り返して刺すことができません。対するエラストグラフィは、簡便に実施できるため、繰り返し検査できます。経過観察をしていくような場面では、繰り返し可能な検査の利便性に分があるでしょう。また、治療の予後を確認するときにも有効です。
編集部:
エラストグラフィは、消化器系の医院ならどこにでもあるのでしょうか?
吉良先生:
肝臓病を扱っている医療機関の中では、先ほど例に出した「フィブロスキャン」という固有の機器が広く使われている印象です。報道番組などでも取り上げられていますし、「肝臓の硬さと脂肪の量が両方、簡便かつ一度に計測できる」というのが大きなメリットですね。ただ、エラストグラフィを実施できるのは大きな医療機関が多く、クリニックではかなり少数なのが実情です。
診断が付く前の「予防」にも有効
編集部:
肝臓を腹腔鏡(ふくくうきょう)で調べる方法もあるそうですが?
吉良先生:
そうですね。腹腔鏡は、開腹ではなく小さな穴からスコープなどを通して観察する方法です。針生検は刺す場所によって、ある意味「アタリ・ハズレ」が出かねません。その点、スコープなら全体を見渡せます。ただし、治療ではなく観察することを目的とする場面においては、針生検と同様に減ってきていると思います。
編集部:
なるほど。健康を意識するなら「気になりはじめたら食事や運動療法をする」でもいいような気がします。
吉良先生:
悪い方へ向かっているのは確かですし、太っている人が痩せるだけでも、さまざまな恩恵を得られるでしょう。現在ではなく将来の予防も込めて、「好ましい自己変容は、早めにはじめておこう」ということです。その際、やはり“検査結果を数値で示せる”と、先述したように説得力があります。
編集部:
患者さんの中には、インターネットなどで理論武装をしてくる人もいると思うのですが?
吉良先生:
その理論が正しければいいですけどね。ただし、誤った認識を持っている人に対しても、“検査結果を数値で示せる”と、好ましい方向へ転じられます。ですが、一番大切なのは、「この先生なら信頼できそうだ」という“かかりつけ医”をもっておくことでしょう。その先生の指導を仰いでください。
編集部:
最後に、読者へのメッセージがあれば。
吉良先生:
確定診断に至らずとも、治療の肩押しをするという意味で、間接的な検査は有効でしょう。また、具体的な数値の提示をして、「きちんと針生検を受けてください」と説得することもできます。ですから、患者さんとしては判断材料が増して、「動きやすくなった」といえるのではないでしょうか。
東長崎駅前内科クリニック
吉良 文孝先生(東長崎駅前内科クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。医療機関の入局や医学系企業への参画を経た2018年、東京都豊島区に「東長崎駅前内科クリニック」開院。“生きがい”のサポートを目指した診療を続けている。日本消化管学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本内科学会認定医、日本ヘリコバクター学会認定医。