参照記事:2022年8月2日 20時0分 文春オンライン
《元舞妓告発から1カ月》桐貴さんの訴えを封殺する“花街の体質”から見えてきた“お座敷セクハラ”が横行するワケ
桐貴清羽さん
「未成年への飲酒の強要や、セクハラに対して声を上げることで花街を変えたい。その気持ちは舞妓時代からありました。でも花街の誰かに相談しても『大変やな。でもこういうもんやから、あんたが我慢しよし』と言われて終わってしまう……。
だからいつか外に出て、花街の実態を伝えようと思っていました。今、こうしてたくさんの反響をいただいて、この問題が議論されていることで、当時のつらかった自分も報われる思いです。
一方で、改めて花街の“体質”を思い知らされたことも事実なんです」
そう語るのは、衝撃的な告発をツイッターに投稿した元舞妓、桐貴清羽さん(きりたかきよは・23)だ。
《当時16歳で浴びるほどのお酒を飲ませられ、お客さんとお風呂入りという名の混浴を強いられた(全力で逃げたけど)。これが本当に伝統文化なのか今一度かんがえていただきたい》(全2回の1回目)
乗せたお客には男性もいた
「“口止め会議”もあったようです」
6月26日に彼女が男性客と飲酒する写真とともに投稿したツイートは、現在31万回以上の「いいね」がつき、13万回以上リツイートされている。6月28日の厚労大臣会見では、後藤茂之大臣がこの件をめぐって「芸妓や舞妓の方々が適切な環境の下で、妓や舞妓としてご活動いただくことが重要」との見解を示すまでに発展した。
その影響は大きく、さまざまなメディアもこの告発の真偽を追及している。桐貴さん自身も、複数のメディアでこの件について語っている。
告発から約1カ月――。
SNSでは桐貴さんの告発を支持する声が大きいが、一方で花街関係者からこんな声もあがっている。
《今舞妓さん問題がいろいろと言われていますが、はっきりと言えます、個人の問題です》
《「置屋、お茶屋が舞妓にお酒を飲ませる、混浴を強いる」は全て嘘》
この状況に、桐貴さんはこう吐露する。
「批判の声を上げていらっしゃる方のなかには、私が相談したときに『わかるー! あるあるだよねー!』なんて言ってくださっていた方もいて、正直ショックを受けています。いまや私だけが証言しているわけではないのに……」
関係者によると、当の花街ではいま、「告発した舞妓ちゃんが悪いってことになっている」という。
「まず、投稿があった翌日の朝、花街では『舞妓は一般人の目があるところで飲酒せず、お茶屋の中で飲酒するように』とお達しがありました。7月5日には芸舞妓や女将さんが集められて、“口止め会議”もあったようです。置屋によっては、『お小遣いは来月から5千円にする』と舞妓ちゃんに宣告したとも聞いています。街に繰り出して、誰かと会ったりご飯に行ったりして、余計な事を喋ってこないようにと言う理由のようです」(花街関係者)
舞妓が受けていた“理不尽な仕打ち”とは
告発後の花街の動きについて、桐貴さんはこう語る。
「花街と共存関係にある方からすると、告発を支持できない事情があることもよくわかります。でもこうやって隠すから、何も変わらないんです。いままで苦境を口にする舞妓さんがいなかったことや、私やほかの関係者が声を上げてもそれを否定する声がこれだけ出てくるのは、やはり花街ならではだなと感じます。
舞妓は『5年奉公』『6年奉公』など、修業を始める前に6~10年の奉公期間を約束します。その期間はお母さん(置屋の主人)から言われるように舞などの訓練をしたり、お座敷に出たり。約束の期間を満了する前に辞めることは裏切り行為で、場合によっては数千万円の違約金を求められます。置屋は芸を磨くための“研修の場”であり、舞妓は“修業中の身”。お母さんへはもちろん、なにがあっても芸舞妓の口答えは絶対に許されないんです」
“修業中の身”である舞妓はいかなる理不尽にでも耐えなければいけない。そういった認識は周囲にも、そして舞妓自身にも深く根を張っているという。
「日常的に暴言を吐かれたり、整形させられたり、お母さんの飼い犬の残したささみを食べさせられたり……。ひどい仕打ちを受けた舞妓さんを私はたくさん知っていますが、『修業なのだから厳しくて当然』とか『忍耐が足りない』と片付けられてしまう。私がセクハラや未成年飲酒について花街で相談をしても、『悪口』や『愚痴』程度にしか受け取られませんでした。
花街において、舞妓さんは“何もわからない子ども”。純真無垢で、ひたむきでなければいけません。周囲からそう求められることで、舞妓さん自身もそういう認識を内面化してしまうんです」
「舞妓の上にお客様がまたがって腰を上下させたり...」
しかしながら舞妓の多くは10代後半。“何もわからない子ども”では決してない。桐貴さんは「まだ話していないこともあります」と、現役時代の“理不尽”についてその詳細を語り始めた。
「実際、私もお客様からのセクハラは、意味が分かっていただけに心底苦痛でした。着物の身八ツ口や裾に手を入れられることはもちろん、横になった舞妓の上にお客様がまたがって腰を上下させたり、反対にお客様の上に舞妓がまたがることもありました。また、舞妓のお座敷芸に『しゃちほこ』という三点倒立をする芸があるのですが、その際に着物の裾を広げて下着を覗き見られることも……。
でも舞妓さんは“子ども”なので『性的な知識がないから恥ずかしがらない』という建前があります。だから『わからしまへん』と返すしかないんです」
「わあ、間接キスだ」セクハラが多発したお座敷遊び
「拒否権がなかった」からこそ、桐貴さんは「お酒」を武器にするしかなかったのだという。当初は未成年飲酒に抵抗があったが、「お客様に『飲まない奴は帰れ』と言われることもあった」という経験を繰り返すうちに、「感覚がマヒしてきた」。
「毎日大量に飲んでいたせいか、かなりお酒に強くなっていて……。ボディタッチがひどくなってきたら、『飲みが足りないんじゃないですか。お流れしましょう』と提案しました。『お流れ』とは、水を張ったお椀を挟んでお客様と舞妓が座り、ひとつのグラスでお酒を一気飲みし合うというお座敷遊びです。お客様がグラスを空にしたら、水を張ったお椀に入れてすすぎ、今度は舞妓が飲むというのを繰り返すのです。『わあ、間接キスだ』と喜んでいるお客様もいましたね。
お客様の気を逸らすために、『滝流し』というおビールグラスを上下二段に構えて、上のグラスから下のグラスそして口へと流す芸も身に着けました。最初は無理やり飲まされていましたが、徐々にアルコール依存症気味になっていきました」
お座敷は夜6時から9時までの「先口」と、9時から12時までの「後口」の二部制。夜遅くに帰宅して、髪結いをする日などは朝の4、5時には起きなくてはならない。ろくに睡眠時間を取れないままにまたお座敷に出なくてはならないので、「お酒が抜ける前にお酒を飲まなくてはいけない。酒漬けの日々で思考力も低下していた」という。
「お前には自分の意見はないのか」
そんなつらい時期に出会ったのが、ある男性客だという。
「そのお兄さんと会話する中で、『お前には自分の意見はないのか』と言われてハッとしたんです。舞妓になってお人形でいることを求められるうちに、私は自分を見失っていたんだ、と。
お兄さんは『僕が手伝うから、好きなように生きてみたら』と言い、連絡を取る手段として携帯電話を渡してくれました。でも、あっという間にお母さんにバレてしまって……。その時、私の中で張りつめていた糸がぷつんと切れてしまった。気が付いたら髪を解いて置屋を抜け出していました。
花街では舞妓や芸妓が夜に置き屋から抜け出し、バーやクラブハウスに繰り出すことを“夜抜け”と言い、それを防ぐために防犯カメラやセンサーを玄関に設置している置き屋もあります。私のいた置き屋にもセンサーがついたので、玄関を飛び出した瞬間ブザーの音が鳴り響きましたが、私は振り向かずに猛ダッシュして、タクシーに乗り込みました」
桐貴さんはその足で実家に身を寄せた。「自分を取り戻した」という桐貴さんだが、すぐに花街から離れられたわけではなかった。「旦那さん制度」や「お風呂入り」といった花街のシステムに巻き込まれていく――。
「じゃんけんで勝った方がお客さんの前を洗うんやで」未成年舞妓に『お風呂洗い』『旦那さん制度』『深夜の酒席』を強いてきた“花街の論理”《弁護士見解「労働契約が必要」》 へ続く