東京都健康長寿医療センター研究所
老化制御研究チーム分子老化制御部
石神昭人研究部長
【健康寿命 75歳の壁を乗り越えよう】
ビタミンC不足は、老化現象や病気など全身の老化に関与するという。どれぐらい摂取すればいいのか。東京都健康長寿医療センター研究所の石神昭人研究部長=写真=に聞いた。
■遺伝子不調修復できず
年を重ねると顔にシミやシワが生じやすくなる。細胞が傷つき、肌の組織が変性した結果だ。こうした老化にビタミンC不足が関わり、さらに全身の老化にも関与することがわかってきた。
「私たちは皮膚の表皮とビタミンCの研究を行っています。ビタミンCは、強い紫外線の細胞へのダメージを防ぐことができます。その理由は活性酸素の除去や炎症の抑制だけでなく、細胞の傷ついた遺伝子の修復にも関わっていたのです」
紫外線を浴びた皮膚では、活性酸素が一気に増える。活性酸素は細胞や組織を傷つけるため、シワ、シミ、動脈硬化、がんなど、さまざまな老化現象や病気に関わる。活性酸素の動きを抑制するのがビタミンCなどの抗酸化物質。特にビタミンCは強い抗酸化作用で知られるが、傷ついた細胞のケアでも欠かせない。
■細胞老化&がん化も
「遺伝情報が正常に転写されないと、細胞はダメージを受けて、老化やがんなどの病気につながります。転写に不具合が生じ、酵素(Tet)が正常に戻すときに、ビタミンCが必要不可欠なのです」
ビタミンCがないと、遺伝情報の転写に不具合が起きても、酵素が働くことができず修復できない。結果として、細胞の老化は進み、細胞のがん化など病気につながる。しかも、寿命が短くなる可能性もあるという。
「ビタミンCが不足すると寿命も縮まることは、私たちの研究で明らかにしています。たとえば、通常のマウスの寿命は24カ月ですが、ビタミンC不足のマウスの寿命は6カ月でした」
ビタミンCが足りないだけで、通常の食事や運動の機会が与えられても、マウスは寿命を全うすることができなかった。体内でビタミンCを合成できない人間も、ビタミンCを意識してとることが重要になる。
■1日1000mg目安
「厚労省が日本人の食事摂取基準で推奨しているビタミンC100mg/日では健康長寿のためには十分とはいえません。ビタミンC不足で起こる壊血病予防に役立つレベルといえます」
壊血病はビタミンC不足が続くことで、粘膜や歯肉などが出血しやすくなるなど、さまざまな症状を引き起こす。1日100mgのビタミンCは、壊血病予防には役立つが、老化やがんなどの病気予防では、さらにとることが必要だという。
「私は健康長寿のために、ビタミンCを1日1000mgは摂取していただきたいと思っています。食べ物だけでは難しいので、サプリメントやビタミンC含有の飲料なども活用するとよいでしょう」
ビタミンCは水溶性なので、余分なものは汗や尿から排泄される。また、全身のコラーゲンや骨などの生成、糖質などの代謝、細胞の遺伝子修復、さらには、体内で爆発的に増える活性酸素の処理で、ビタミンCは常に多量に使われている。
「野菜や果物を食べていても、ビタミンCは不足しがちなのです。それを認識していただきたいと思います」
次週は、ビタミンCの上手な摂り方を紹介する。
■石神昭人(いしがみ・あきひと) 東京都健康長寿医療センター研究所老化制御研究チーム分子老化制御研究部長。1990年東邦大学薬学部大学院卒(薬学博士)。米国国立衛生研究所、米国国立老化研究所客員研究員などを経て、2011年東京都健康長寿医療センター研究所分子老化制御研究副部長、12年東京都立大学教授(兼任)。14年から現職。