10/25(火) 17:00夕刊フジ
東京都健康長寿医療センター
荒木厚副院長
【健康寿命 75歳の壁を乗り越えよう】
心身の虚弱を意味するフレイルは、要介護の一歩手前、健康長寿の大敵だ。ここでの予防法が老後を大きく左右する。東京都健康長寿医療センターの荒木厚副院長に対処法を詳しく聞いた。
■コロナ自粛で2倍以上
フレイルは、健康な状態と要介護状態の中間に位置する。身体的・精神的・社会的な3つのフレイルが重なることで、要介護のリスクが高くなり、健康寿命を縮めてしまう。(1)身体的なフレイルは筋力が衰え、疲れやすく、歩くことが遅くなり、身体活動量が低下。(2)心理的なフレイルは、認知機能の低下、気分の落ち込みや気力の低下など。(3)社会的フレイルは、閉じ籠もりや孤立などで社会とのつながりが薄くなる状態のことだ。
高齢になるにつれ3つのフレイルに陥りやすいが、コロナ自粛がそれに拍車をかけてしまった。
「毎年、高齢者の6%程度がフレイルに陥っていましたが、昨年は約16%。コロナ自粛に伴い外出機会や社会交流の減少、身体活動の低下、栄養不足などの要素が絡み合い、フレイルに陥りやすい環境でした」
こう話す荒木副院長は、フレイル予防センター長を兼務し、「フレイルサポート医」の研修を行うなど、自治体と連携しながら総合的なフレイル対策に取り組む。
■〝コロナ萎縮〟
3年にも及ぶコロナ自粛で生活が一変したのは老若男女を問わない。特に1年目は運動不足や体重増加に伴う生活習慣病の悪化、不安定な精神状態などを抱えて、体調不良に陥りやすい状況だった。昨年にはワクチン接種がスタートし治療薬も登場した。感染予防を心掛けながらも少しずつ行動範囲を広げ、運動不足解消やストレス発散に取り組んだ人はいる。だが、高齢者は自粛を続けた人が少なくなかったと考えられる。
「高齢者は重症化しやすいことから自粛を進めた国の施策が浸透し、ワクチン接種後も一切外出をしない、社会交流を持たない人がいるのです」
感染拡大のときには、〈高齢者は重症化しやすいので外出を控える〉よう促された。基礎疾患を持つ人も重症化リスクが高いとして、人混みを控える傾向があっただろう。この状況が、ずっと今も続いているのだ。つまり、自粛というより〝コロナ萎縮〟である。
■意識を変えよう
「ご自身が感染して重症化すれば家族に迷惑をかけると考える人もいます。しかし、フレイルが進行して要介護になっても、ご家族に迷惑をかけるでしょう。マスクや手洗の感染予防は行いつつ、ぜひフレイル予防にも取り組んでいただきたいと思います」
高齢者は、3つのフレイルに陥らないように意識することが大切。当たり前のことだが、身体を動かす運動習慣、バランスのよい食事、友人などとのおしゃべりなど社会交流によってフレイル予防を心掛けることがなにより。引きこもった高齢者の外出を促すには、家族のサポートも必要だ。
「65~74歳のプレ高齢者(準高齢者)の方もフレイルに陥るリスクは高いので注意していただきたい。特にメタボな方は、リスクが高いので改善を心掛けましょう」
■荒木厚(あらき・あつし)
東京都健康長寿医療センター副院長、フレイル予防センター長兼務。1983年京都大学医学部卒。英国と米国留学などを経て現職。主な専門分野は、老年医学、糖尿病、病態栄養。