帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (二十一と二十二)

2012-03-30 00:05:00 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 紀貫之 新撰和歌集 巻第一春秋 百二十首(二十一と二十二)


 春の夜のやみはあやなし梅の花 色こそみえね香やはかくるる 
                                    (二十一)

 (春の夜の闇は道理にあわない、梅の花、色こそ見えない、けれど香りは隠れるか……はるの夜の心の闇は、みだれている、おとこ花、闇に色は見えないけれど、かの香はかくれるか、きえない)。


 言の戯れと貫之のいう「言の心」。

 「はる…季節の春…人間の春…情の春…ものの張る」「やみ…闇…暗いこと…心の闇…心の迷い乱れ」「あやなし…綾なし…道理も条理もない…乱れている」「梅の花…男花…おとこ花」「いろ…色…かたちに表れたもの…おとこ花の白い色」「か…香…彼…あれ…過…あやまち」「やは…か…疑問の意を表す…か、いや、ではない…反語の意を表す」「かくるる…隠れる…無くなる…消える」。

 


 年ごとにあふとはすれどたなばたの ぬる夜のかずぞすくなかりける
                             
(二十二)

 (年毎に逢うとはしても、七夕星の寝る夜の数は、少ないことよ……疾しごとに、合おうとはすれど、たなばた星のように、しっとり濡れる夜のかずは、少ないことよ)。


 「とし…年…疾し…一瞬…早過ぎ」「ごと…毎…事」「あふ…逢う…合う…和合する」「ぬる…寝る…共寝する…濡る…しっとり濡れる」「かず…数…かす…彼す…あのす」「す…洲…女」「すくなし…数が少ない…稀である」「ける…けり…だったなあ…詠嘆の意を込めて過去のことを述べる」。



 少年の作文のような春の景色の描写に包まれて、生々しいおとこのはるの有様が詠まれてある。対するは、少年の作文のような秋の夜の思いに包まれて、生々しいおとこの思いが詠まれてある。


 貫之のいうように、歌の様式を知り言の心を心得ると、貫之とほぼ同じ歌の聞き方ができる。貫之の撰定した歌は、「花実相兼」「玄之又玄」「漸艶流於言泉」「妙辞」「絶艶之草」であることを、歌から直接、実感することができる。

 

 
 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず