帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (二十三と二十四)

2012-03-31 00:02:29 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 紀貫之 新撰和歌集 巻第一春秋 百二十首(二十三と二十四)


 あすからは若菜つまむとしめしのに きのふもけふも雪はふりつつ 
                                    (二十三)

(明日からは、若菜摘もうと標し野に、昨日も今日も、雪は降り続く……明日からは、若なつもうと、めざしたのに、近付く前日にも、白ゆきふりつつ、筒)。


 言の戯れと言の心
 「若菜…若い女」「菜…草…女」「つむ…摘む…引く…めとる…我がものとする」「しめしの…標し野…標結い立ち入りを禁じる野…占し野…占有の野…目標の野」「に…場所を示す…のに…けれども」「きのふもけふも…昨日も今日も…明日が近付く日々…期待の高まるにつれ」「ゆき…雪…おとこ白ゆき…おとこの情念…おとこの魂…逝き」「つつ…反復を表す…継続を表す…筒…中空…おとこ」。


 この歌に限ったことではないけれども、言葉に孕む複数の意味が充分に生かされてあり、言葉の用い方は絶妙と言えるでしょう。

 
 言の戯れの中に秘められてある生々しいありさまは、歌にあるものと知り、言の心を心得た人にのみ顕れる。



 このまよりおちくる月のかげ見れば 心づくしのあきはきにけり 
                                    (二十四)

(木の間よりもれくる月の光を見れば、もの哀しい思い尽くす秋は来たことよ……この間より、堕ちくるつき人おとこの陰り見れば、心尽くしの飽きは来たことよ)。


 「このま…木の間…此の間」「間…女」「おちくる…こぼれる…堕ちる…堕落する…尽きくずれる」「月…月人壮士…おとこ…突き…尽き」「かげ…影…光…陰…陰り」「見…覯…媾…まぐあい」「心づくし…心尽くし…心をつかい果たす…もの思いの限りを尽くす」「あき…秋…飽き…飽き満ち足り…厭き」。



 春の日常の事柄を清げな姿として、はるのおとこの生々しい情況が内に秘められてある。対するは、秋の月夜の景色を清げな姿として、尽きた飽きの夜の女の生々しい思いが内に秘められてある。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず