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帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの『金玉集』 冬(三十五) 紀 貫之

2012-11-22 00:13:35 | 古典

    



             帯とけの金玉集



 紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。


 公任の金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が撰ばれてあるに違いないので、歌
言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。

 
 
 金玉集 冬
(三十五) 紀 貫之

 思ひかねいもがりゆけば冬の夜の 川風さむみ千鳥なくなり 

 (思いに耐えられず、愛しいひとの許へ行けば、冬の夜の川風寒くて、千鳥が鳴いている……思火に耐えられず、愛しいひと、かり逝けば、冬の夜のひとの心風寒くて、頻りに泣いているようだ)。


 言の戯れと言の心

 「思ひ…心に思うこと…思い火…情愛」「かね…かぬ…出来そうもない…しにくい」「いもがり…妹の許…彼女の許…女かり」「かり…狩り…あさり…刈り…ひきぬき…めとり」「ゆけば…行けば…逝けば」「かはかぜ…川風…女の心に吹く風」「川…女」「さむみ…寒いため…冷やかなため…さむ見」「み…原因理由を表す…見…覯…まぐあい」「千鳥…しば鳴く鳥…頻りに泣く女」「鳥…女」「なく…鳴く…泣く」。 


 歌の清げな姿は、女を訪ねる途中の寒々とした夜の景色。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、思火に耐えられずいってしまったので、泣く女の冷やかな気色。

 拾遺和歌集 冬に、題しらず、貫之としてある。

 

 なぜ泣いているのかと問えば、「夜が寒くて目覚めて聞けば(千鳥ではなく泣いているのは)をし鳥のひと、羨ましくも、みは成りに成ったのねえ」と女は答えたとか。歌に還元すると、

 夜をさむみ寝覚めて聞けばをしどりの 羨ましくもみなるなるかな

 
 「をしどり…夫婦仲睦ましい鳥」「みなる…水慣る…(冷たい)水に慣れている…み成る…見が成就する…身が成就する」「なるなる…複数成ったことを表す」「かな…感嘆・詠嘆の意を表す」。


 この歌は、同じ拾遺集 冬に、よみ人しらずとしてある。女歌として聞く。


 

 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず

 
  『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。