帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (199)秋のよは露こそことに寒からし

2017-04-12 19:06:03 | 古典

            

 

                        帯とけの古今和歌集

               ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 199

 

(題しらず)              (よみ人しらず)

秋のよは露こそことに寒からし くさむらごとにむしのわぶれば
                                                           
(詠み人知らず、女の詠んだ歌として聞く)

(秋の夜は、露こそ特に寒く感じるらしい、草むら毎に、虫がわびしく鳴くので……あきの夜の、余りは、おとこ・白つゆこそ、特に心寒いにちがいない、おんなの・くさむら毎に、身のうちの虫が、わびしがるので)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「秋…あき…飽き…厭き」「よ…世…女と男の仲…夜…余」「露…夜露…白露…つゆ…おとこ白つゆ…色事の果て」「寒…肌寒い…心が寒い…情熱が冷える」「らし…であるらしい…きっとそうだろう…確信ある推量の意を表す」「くさ…草…草の言の心は女」「虫…鳴く虫の言の心は女…身の内に棲む虫」「わぶ…寂しい思いになる…哀しく嘆く」。

 

秋の夜は、夜露こそ寒いらしい、草むら毎に、虫が侘びしく鳴くので。――歌の清げな姿。

飽き厭きる、おんなとおとこの仲は、白つゆこそ、寒々しいに違いない、女のくさむら毎に、身に棲む虫が、侘びしがって泣くので。――心におかしきところ。

 

誰とも知れない女の歌、清げな秋の夜の風情に付けて、「心におかしきところ」には、性愛の果て方の、女の心に思うことが言い出されてある。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)