帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百四十〕さかしき物

2011-11-29 00:38:15 | 古典

    



                       帯とけの枕草子〔二百四十〕さかしき物



   言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 

 清少納言枕草子〔二百四十〕さかしき物


 さかしき物、いまやうの三とせご(こざかしいもの、今ごろの三歳児……おりこうなもの、今風の三年目の女御)。 
 
幼児の祈祷をし、腹など手さすりする女。ものの具など請い、出させて、祈り物を作る。紙を多数おし重ねて、たいそう鈍い刀で切るさまは、一重でさえ断てそうもないのに、そのようなものの具と決まっているので、おのれの口さえひきゆがめて押し切り、目多いもの(のこぎり状のもの)で、竹の端うち割ったりして、たいそう神々しく仕立てて、うち振って、祈ることどもは、いとさかし(とってもお上手…ひどくこざかしい)。それに加えて、「なにの宮、その殿の若君がたいそうな状態であられたのを、かき拭うようにお治し致しましたので、ろく(禄・ご褒美)を多く賜りましたことよ。その人、彼の人を召しましたけれど霊験ないものですから、今では、この女(私め)をですね、召します。召す方の御徳をですね見る思いです」などと語っている、かほもあやし(顔も霊妙だ…顔も奇怪だ)。

  げすの家の女あるじ、しれたる物(下衆の家の女主人、痴れた者…外衆の家の女主人、愚か者)が、それでも、お利口ぶって、真に賢い人に、をしへなどすかし(ものを教えたりするよ)。


  言の戯れと言の心

「さかし…賢し…賢い…利口である…こざかしい…さがし…危ない…あやうい…しっかりしていない」「とせ…歳…年月…年齢」「ご…児…御…女の敬称(故皇后の喪のころ入内三年目を迎えた御は道長のむすめ彰子)」「あやし…怪しい…霊妙だ…奇怪だ」「げす…下衆…身分など賤しい人たち…外衆…言語、文化圏外の人たち」「しれたる…痴れたる…ぼけた…おろかな」。



 故皇后の喪中に局に籠もっている女房たちのために書いたものと、そのように読めば、文の「心におかしきところ」と趣旨がよくわかるでしょう。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。