帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(39)くらぶ山 闇に越ゆれどしるくぞありける

2016-10-07 19:17:07 | 古典

               


                             帯とけの「古今和歌集」

                    ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、普通の言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解く。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
39


     くらぶ山にてよめる          貫 之

梅花にほふ春べはくらぶ山 闇に越ゆれどしるくぞありける
      
くらぶ山にて詠んだ歌            紀貫之

(梅の花、匂う春のころは、くらぶ山・暗ぶ山、暗闇に越えても、行く路は・はっきりわかることよ……おとこはな、色艶やかに張るのころは、くらぶ山・慣れ親しんだ山ば、闇夜に越えても、おとことおんな・しるけきことよ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「梅花…男花…木の花の言の心は男花」「にほふ…匂う…美しい…色艶よい」「春…青春…春情…張る」「くらぶ山…山の名…名は戯れる…暗ぶ山、比ぶ山(近しい山・親しい山)」「くらぶ…比ぶ…近しい…親しい…土佐日記(1221日)では『年ごろよくくらべつる人々なむ別れ難く思ひて』と用いられてある」「山…山ば…感情の山ば」「しるく…著く…はっきりしている…汁く…しっとり濡れている」

 

梅の花の咲き匂う頃は、暗い山、闇夜に越えても、白色と香りが・はっきりとして・道しるべになることよ。――歌の清げな姿。

おとこはな、咲き匂う、春情の張るのころは、慣れ親しんだ山ば、闇夜に越えても、二人は・しっとり濡れることよ。――心におかいきところ。

 

友則の歌では「しる…知る…汁」と戯れていた。この歌では「しるく…著るく…顕著である…汁く」と戯れている。それが両歌の「をかし」の要である。


 清少納言は「聞き耳異なるもの(聞く耳によって意味の異なるもの)」其れが、われわれの用いる言葉である。俊成は「歌の言葉は、浮言綺語の戯れに似た戯れである」という。これらの言語観の正当な事が、古今集の歌を紐解くうちに次第にわかってくる。


 (古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)