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帯とけの拾遺抄
恋歌番外 七夕の歌(古今集)
今日八月二十日は、旧暦の七月七日、七夕の日である。七夕にちなんで、古今集の七夕の歌を聞く。
古今和歌集、巻第四秋歌上に、七夕の歌は十首並んでいる。他に巻第十八雑歌上に一首ある。
題しらず よみ人しらず
秋風の吹にし日より久方の あまのかはらにたたぬひはなし
題しらず (よみ人しらず・男の歌として聞く)
(秋風が吹いた日より、ひさかたの天の河原で、天の川渡る時を待ち・立ち出ぬ日はない……心に・飽き満ち足りた風が吹いた日より、久堅が、吾間の彼腹に、勇み・立たぬ日は無い)
「秋風…季節の秋の風…飽き風…心に吹く飽き満ち足りた風」「久方の…枕詞、天や月などにかかる…戯れて、久堅、久しく堅牢」「の…所在を表す…主語を示す」「あまのかはら…天の河原…彦星が出立する所…職女星が立待ちする所…戯れて、吾間の彼女の腹」「間…ま…女」「たたぬひはなし…立たない日はない…いつも立っている」。
寛平の御時后宮歌合の歌 藤原おきかぜ
契剣心ぞつらき織女の 年にひとたびあふはあふかは
寛平の御時后宮歌合の歌 (藤原興風・古今集に十七首載る・撰者たちとほぼ同じ年代、身分の人)
(契ったのだろう心ぞ、辛く苦しい織姫が、一年に一度逢うは、逢うかは・逢うといえるのか……そのように・約束したのだろう、剣のような・きれる冷徹な、心ぞ、無情なたなばたつ女が、としにひとたび、逢うは合うかは・和合なるのか)
「契…約束…逢瀬…交情」「剣…両刃のつるぎ…きれものの感じ…解りの早い…冷徹な感じ…けん…けむ…たのだろう…過去のことを推量する意を表す」「つらき…堪えられない…心苦しい…不人情である…無情である」「年…とし…疾し…早過ぎるさま…おとこのさが」「ひとたび…一度…一過性…おとこのさが…二合いは容易ではない」「あふ…逢う…合う…合体…和合」。
なぬかのよのあか月によめる 源むねゆきの朝臣
今はとてわかるゝ時はあまの河 わたらぬさきに袖ぞひちぬる
七日の夜の暁に詠んだ (源宗于朝臣・貫之が土佐の国から帰京したころ右京大夫。百人一首に冬歌がある)
(今年はこれで・最後だねと、別れる時は、天の河、渡らぬ先に、涙で・袖が濡れてしまう……井間は・これで最後と、離れる時は、あまの川、つづかぬ先に、身の・端ぞぬかるみ濡れる)
「今は…臨終…最後の一時…井間は」「井・間…言の心はおんな」「あま…天…女」「河…川…言の心はおんな」「わたらぬ…(まだ川を)渡らない…しつづけない」「さき…先…(時間的に)前…ものの先端…おとこ」「に…時に…のために」「袖…端…身の端」「ひち…泥…ぬかるみ…ひつ…水につかる…濡れる」「ぬる…ぬ…完了した意を表す…濡る」。
源宗于は光孝天皇の孫。人の妻との不倫の恋ながら、見果てぬ夢の恋、逢わずして今宵あけぬる恋や、再び逢い難き恋を経験した人。
やうかの日よめる みぶのただみね
けふよりは今こむ年のきのふをぞ いつしかとのみまちわたるべき
八日の日に詠んだ (壬生忠岑・古今集撰者の一人)
(今日よりは、今に来るだろう年の、昨日をぞ、何時かとばかり、待ち続けるのだろうか……京・感の極み、よりは、井間にくる、疾しの・一瞬の、貴の夫おぞ、いつかとばかり、待ち続けなければならないのか・織姫よ)
「けふ…今日…きゃう…京…山の頂上…感の極み」「今…いまに…井間に」「井・間…言の心は女」「年…とし…疾し…早過ぎ…一瞬…おとこのさが」「きのふ…昨日…貴の夫…貴身」「べき…べし…推量の意を表す…予定の意を表す…義務の意を表す」。
原文は、古今和歌集 新日本古典文学大系 岩波書店 による。