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帯とけの枕草子〔二百八十一〕陰陽師のもとなる小童こそ
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百八十一〕をんやうじのもとなるこわらはべこそ
文の清げな姿
陰陽師のもとにいる小童こそ、とってもよくものごとを知っている。祓えなどしに出ると、祭文など読むのを、人はやはり聞いている。小童はさっさと立ち走りして、酒、水をい掛け、注げとも言わないのにしてまわる様子の、例を知り、少しも主人にもの言わせないのが羨ましいことよ、このような者がいればねえ、使いたいと思うよ。
原文
をんやうじのもとなるこわらはべこそ、いみじう物はしりたれ、はらへなどしにいでたれば、さいもんなどよむを、人は猶こそきけ、ちうとたちはしりて、さけみづいかけさせよ、ともいはぬに、しありくさまの、れいしり、いさゝかしうに物いはせぬこそ、うらやましけれ。さらん物がな、つかはんとこそおぼゆれ。
心におかしきところ
陰陽肢のもとの小さな童べこそ、とってもよく、ものの事は知っている。腹辺に出ると、さいもん(かみ・女に告げる言葉)など男が言うのを、女はやはり聞いている。童べは、さっさとたち走りして、「白さけ、をみなに射かけよ」とも言わないのに、しつづける様子の、いつものこと、少しも主人の男に、もの言わせない(勝手な振る舞い)こそ、心病んでいることよ、このような物よくも使おうなんて思うよね。
言の戯れと言の心
「をんやうじ…陰陽師…天文、暦、方位、祓等を司った陰陽寮の役人…おん陽肢…おとこ」「こわらはべ…ちいさな童子…おとこ」「はらへなど…祓えなど…(女の)腹辺」「さいもん…祭文…神に告げる言葉…上(女)に告げることば」「酒…白酒」「水…女」「うらやまし…羨ましい…心が病ましい…心の疾患」「うら…心」「物がな…者がいればなあ(願望を表す)…物なのになあ(疑問を表す)」「つかはんとこそおぼゆれ…使いたいと思うよ…(よくもまあ)使おうと思うよ」。
主人の言うこと聞かず、先走って、いかけたり、伸縮したりするのは、「こわらはべ」の、すくせ(宿命)と知りまいょう。
気のきかない家の使用人に皮肉を言ったのではない。この章も、宮仕えを志す若い女たちへの助言。感受性豊かで上手に自己表現するための情操教育か。この話に笑えれば合格でしょう。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。