帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (228)秋の野に宿りはすべしをみなへし

2017-05-15 19:27:35 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                     ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直している。古今和歌集の歌には多重の意味があり、その真髄は、公任のいう「心におかしきところ」である。人のエロス(生の本能・性愛)の表現で、俊成がいう通り、歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる。

歌のエロスは、中世に秘事・秘伝となって「古今伝授」となり、やがて、それらは埋もれ木の如くなってしまった。はからずも、当ブログの解釈とその方法は「古今伝授」の解明ともなるだろう。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 228

 
           
是貞親王家歌合の歌          敏行朝臣

秋の野に宿りはすべしをみなへし 名をむつましみ旅ならなくに
              
是貞親王家歌合の歌             藤原敏行朝臣

(秋の野に宿泊するといい、女郎花、心惹かれる・名を親しんで、旅でなくても……厭きのひら野に、泊まり、留まるといい、をみな圧し、汝お、睦みあうために、度々でなくとも)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「あきのの…秋の野…飽き満ち足り、山ばでは無くなった処…厭きの野」「宿り…宿泊…とまり」「すべし…するがよい…適当の意を表す」「をみなへし…女郎花…花の名…名は戯れる。をみな部し・をみなの集団・遊女たち・年中春のもの売る女たち」「なを…名を…汝を…親しきもの…おんな・おとこ」「を…対象を示す…お…おとこ」「むつましみ…睦ましみ…親しみ…睦み合うために」「たび…旅…度…度々」「ならなくに…ではないのに…ではなくても」。

 

秋の野に宿泊するといい、女郎花、心惹かれる・名を親しみ、旅でなくても・近くの野でも。――歌の清げな姿。

厭きのひら野に、とう留するといい、遊びめ圧し、汝お、むつみ合うために、度々でなくても・たまには。――心におかしきところ。

 

歌の主旨は、女郎花のある野辺での野宿の勧めではない。遊び女との交歓について、男の素直な思いを言い出した歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)