帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (221) なきわたるかりの涙やおちつらむ

2017-05-08 19:20:50 | 古典

            

 

                      帯とけの古今和歌集

                      ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 国文学が無視した「平安時代の
紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直している。古今和歌集の歌には多重の意味があり、その真髄は、公任のいう「心におかしきところ」である。人のエロス(生の本能・性愛)の表現で、俊成がいう通り、歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる。

歌のエロスは、中世に秘事・秘伝となって「古今伝授」となり、やがて、それらは埋もれ木の如くなってしまった。はからずも、当ブログの解釈とその方法は「古今伝授」の解明ともなるだろう。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 221

 

(題しらず)               (よみ人しらず)

なきわたるかりの涙やおちつらむ 物思やどのはぎのうえのつゆ
                                    
(詠み人知らず・女の歌として聞く)

(鳴き渡る雁の涙でも、落ちたのでしょうか、もの思う、女の・宿の萩の上の露よ。……泣き続ける、かりする汝身唾でも、落ちてしまったのでしょうか、もの思うや門の、剥ぎのその上の、白つゆよ・身も心も冷える)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「鳴き…泣き」「わたる…渡る…つづく」「かり…雁…刈・狩…めとり…まぐあい」「なみだ…泪…涙…汝身唾…貴身のなみだ」「やど…宿…言の心は女…屋門…おんな」「はぎ…萩…端木…おとこ…剥ぎ…引き離し」「うえの…上の…その上に…さらに物事が加わることを表す」「つゆ…露…白露…おとこ白つゆ…体言止めで余情がある、冬が間近に来たことよ・身も心も冷え冷えするわ、など」。

 

鳴き渡る雁の涙でも、落ちたのでしょうか、悩ごと思う宿の、庭の萩の上の白露。――歌の清げな姿。

泣きわたる女、かりする貴身のなみだ、落ちてしまったのでしょうか、もの思う端木の、あげくの果ての、おとこ白つゆ・身も心も冷え冷えするわ。――心におかしきところ。

 

女がその時、心に思うことを、見る物、聞くものに付けて言い出した歌。不満のある者の歌は悲しいという。真名序に「怨者其吟悲」とある。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)