帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (220) あきはぎの下葉いろづく今よりや

2017-05-06 19:21:34 | 古典

            

 

                       帯とけの古今和歌集

                      ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


 国文学が無視した「平安時代の
紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直している。古今和歌集の歌には多重の意味があり、その真髄は、公任のいう「心におかしきところ」である。人のエロス(生の本能・性愛)の表現で、俊成がいう通り、歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる。

歌のエロスは、中世に秘事・秘伝となって「古今伝授」となり、やがて、それらは埋もれ木の如くなってしまった。はからずも、当ブログの解釈とその方法は「古今伝授」の解明ともなるだろう。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 220

 

題しらず               よみ人しらず

あきはぎの下葉いろづく今よりや ひとりある人のいねがてにする

(題知らず)                (詠み人知らず・女の歌として聞く)

(秋萩の下葉色付く、今より、独り住まいの女のように、わたしを、眠れなくする・季節かな。……厭き端木の下端、色尽きる、今より、独り身の女のように、眠れなくするのか・秋の夜長を)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「秋萩…厭き端木…厭きた男」「木の言の心は男」「下葉…下端…おとこ」「いろづく…色付く…紅葉する…いろつく…色尽きる…色情が失せる…かたちが失せる」「今よりや…晩秋よりか…井間よりよ」「や…感嘆の意を表す…疑問の意を表す」「ひとりある人の…独り住む人のように…独り身でいる女のように(隣に君が居るのに)」「の…所属を表す…のように…比喩を表す」「いねがてにする…寝難くする…眠れなくする」。

 

秋萩の下葉が紅葉する、今の季節より、もの寂しくて・独り身の女の、わたしを・眠り難くするのか。――歌の清げな姿。

厭き端木となった貴身、色情尽きる今より・秋の夜長の独り身の女のように、わたしを・眠れなくするのねえ。――心におかしきところ。

 

はかないおとこの性(さが)に、いまの心より、抗議する女の歌のようである。次も同じく女歌である。

敏行、躬恒の男歌に、つづいて、均衡良く詠み人知らずの女歌が二首並べられてある。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)