帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔百四十八〕むつかしげなる物

2011-08-19 06:09:19 | 古典

  



                           帯とけの枕草子〔百四十八〕むつかしげなる物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔百四十八〕むつかしげなる物


 文の清げな姿

 いやな気持になるもの、縫い物の裏。鼠の子が毛もまだ生えないのに巣の中よりころがり出ている。
 裏をまだ付けていない革衣の縫い目。猫の耳の中。とくに清潔でない所の暗いの。何ということのない人が子供多数持ってめんどう見ている。たいして深くは好意のない妻が、心地悪くして久しく病んでいるのも、男の気持はいやなものでしょう。


 原文

 むつかしげなる物、ぬい物のうら。ねずみのこのけもまだおひぬを、すの中よりまろばしいでたる。
 うらまだつけぬかわきぬのぬいめ。ねこのみゝの中。ことに清げならぬ所のくらき。
 ことなる事なき人の、こなどあまたもちあつかひたる。いとふかふしも心ざしなきめの、心ちあしうしてひさしうなやみたるも、をとこの心ちはむつかしかるべし。


 心におかしきところ

 いやな気持になるのもの、逢うものの心、寝ず身の子の、気もまだ極まらぬのに、すの中より、まるまる端出ている。

心未だゆき着けぬ、乾き来たような逢う女。寝子の見見の途中。とくに気好げならぬところの暗い気持。

こと成る事の無い男が、御(女)などあまた持って、くるしんでいる。とくに深くも好意無き妻が、心地悪くして、久しく汝止みたるも、おとこの心地は不快でしょう。


 言の戯れと言の心

「むつかしげ…気味が悪い感じ…嫌な気持になる」「縫う…逢う…合う…合体」「うら…裏…心」「ね…根…おとこ…寝」「す…女」「おひぬ…生ひぬ…生えない…追ひぬ…極まらない」「こ…子…おとこ」「みみ…耳…身身…見見」「見…まぐあい」「こ…子…ご…御…女の敬称」「あつかふ…扱う…世話をする…心をくばる…苦しみ悩む」「心ちあしうしてひさしくなやみたる…気分が悪くなって久しく病んでいる…心地を悪くして久しく悩んで居る…心地悪くして久しく汝止んでいる」「なやみ…悩み…患い…汝止み」「汝…身近なもの…これ…おとこ」。

伝授 清原のおうな

聞書 かき人知らず   (2015・9月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。