帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔十四〕ふちは

2011-03-05 06:02:29 | 古典

  



                                       帯とけの枕草子〔十四〕ふちは



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」。
「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 

枕草子〔十四〕ふちは


 ふちは、かしこふちは、いかなる底の心を見て、さる名を付けんとをかし。ないりその淵、たれにいかなるひとのをしへけん。あをいろの淵こそおかしけれ、くら人などのぐにしつべくて。かくれの淵。いな淵


 清げな姿

淵は、おそろしい淵は如何なる底の心を見て、そのような名を付けたのかとおかしい。入る勿れの淵、誰に如何なる人が教えたのでしょう。青色の藤衣はおかしいことよ、蔵人などの衣にするべきで。隠れの淵。否淵。

 心におかしきところ

ふちは、賢いふちは如何なる其処の心を見て、そんな名を付けたのかとおかしい。入る勿れのふち、誰によって、如何なる人のお肢、圧死たのでしょう。青色のふちこそおかしいことよ、蔵人などの妻にするべきで。隠れてるふち、否というふち。



 言の戯れを知り、紀貫之のいう「言の心」を心得ましょう

 「ふち…淵…川の深い所…女…深情けの物…婦路…藤…藤衣…粗末な衣」「せ…瀬…浅い…背…男…情の浅い物…おとこ」。「かしこ…畏れ多い…恐れ多い…賢しこい」「おしへけむ…教えたのだろう…お肢圧したのだろう」「おし…おとこ…押し」「へし…圧し…圧死」「あを色…蔵人の衣の色」「ぐ…具…衣など…つれそう人…つれあい」。


 

同じ文脈にある和歌を聞きましょう。


古今和歌集 巻十八 雑歌下巻頭題しらず よみ人しらず

よのなかはなにかつねなるあすかかは きのふのふちぞけふはせになる


 清げな姿

世の中は何か常なる飛鳥川 昨日の淵ぞ今日は瀬になる


 心におかしきところ

女と男の仲は、何が常なるものか、飛鳥川、昨日の深い情が今日は浅背になるわ。

夜の仲は、何が常なるものか、飛ぶ鳥かは、貴の夫の深いふちがよ、京では浅背となる。


 古今和歌集 巻十八 雑歌下 家を売りてよめる 伊勢

あすかゝはふちにもあらぬわがやども せにかはり行く物にぞ有ける


 清げな姿

飛鳥川淵にもあらぬ我が宿も 瀬に変り行く物だったのねえ。


 心におかしきところ

飛鳥川の淵でも扶持でもない我が宿も、瀬ではなく、銭に変り行く物だった。 

飛鳥川の淵でも、情深くもないわがや門も、背の君によって変りゆく物だったことよ。


 言の戯れを知り、紀貫之のいう「言の心」を心得ましょう
 
「飛鳥川…上のよみ人しらずの歌のすべてが、此の言葉の言の心」「鳥…女」「川…女…かは…疑問を表す」「きのふ…昨日…貴の夫」「ふち…淵…深い…情の深い…女…扶持…禄…給与」「けふ…今日…京…山ばの頂上…感の極み」「やど…宿…女…屋門…夜門」「や…屋…家…女」「と…門…女」「せに…瀬に…銭…背によって…おとこのために」「せ…瀬…浅い…背…男…薄情…浅い情の物…おとこ」。「に…にと…変化の結果を表す…により…原因理由を表す」。


 

文も歌も、藤原公任のいう「深き心」は、あれば、それぞれそれなりに聞こえるでしょう。


 

伝授 清原のおうな


 聞書  かき人しらず   (2015・8月、改訂しました)