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帯とけの枕草子〔十四〕ふちは
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
枕草子〔十四〕ふちは
ふちは、かしこふちは、いかなる底の心を見て、さる名を付けんとをかし。ないりその淵、たれにいかなるひとのをしへけん。あをいろの淵こそおかしけれ、くら人などのぐにしつべくて。かくれの淵。いな淵
清げな姿
淵は、おそろしい淵は如何なる底の心を見て、そのような名を付けたのかとおかしい。入る勿れの淵、誰に如何なる人が教えたのでしょう。青色の藤衣はおかしいことよ、蔵人などの衣にするべきで。隠れの淵。否淵。
心におかしきところ
ふちは、賢いふちは如何なる其処の心を見て、そんな名を付けたのかとおかしい。入る勿れのふち、誰によって、如何なる人のお肢、圧死たのでしょう。青色のふちこそおかしいことよ、蔵人などの妻にするべきで。隠れてるふち、否というふち。
言の戯れを知り、紀貫之のいう「言の心」を心得ましょう
「ふち…淵…川の深い所…女…深情けの物…婦路…藤…藤衣…粗末な衣」「せ…瀬…浅い…背…男…情の浅い物…おとこ」。「かしこ…畏れ多い…恐れ多い…賢しこい」「おしへけむ…教えたのだろう…お肢圧したのだろう」「おし…おとこ…押し」「へし…圧し…圧死」「あを色…蔵人の衣の色」「ぐ…具…衣など…つれそう人…つれあい」。
同じ文脈にある和歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻十八 雑歌下巻頭題しらず よみ人しらず
よのなかはなにかつねなるあすかかは きのふのふちぞけふはせになる
清げな姿
世の中は何か常なる飛鳥川 昨日の淵ぞ今日は瀬になる
心におかしきところ
女と男の仲は、何が常なるものか、飛鳥川、昨日の深い情が今日は浅背になるわ。
夜の仲は、何が常なるものか、飛ぶ鳥かは、貴の夫の深いふちがよ、京では浅背となる。
古今和歌集 巻十八 雑歌下 家を売りてよめる 伊勢
あすかゝはふちにもあらぬわがやども せにかはり行く物にぞ有ける
清げな姿
飛鳥川淵にもあらぬ我が宿も 瀬に変り行く物だったのねえ。
心におかしきところ
飛鳥川の淵でも扶持でもない我が宿も、瀬ではなく、銭に変り行く物だった。
飛鳥川の淵でも、情深くもないわがや門も、背の君によって変りゆく物だったことよ。
言の戯れを知り、紀貫之のいう「言の心」を心得ましょう
「飛鳥川…上のよみ人しらずの歌のすべてが、此の言葉の言の心」「鳥…女」「川…女…かは…疑問を表す」「きのふ…昨日…貴の夫」「ふち…淵…深い…情の深い…女…扶持…禄…給与」「けふ…今日…京…山ばの頂上…感の極み」「やど…宿…女…屋門…夜門」「や…屋…家…女」「と…門…女」「せに…瀬に…銭…背によって…おとこのために」「せ…瀬…浅い…背…男…薄情…浅い情の物…おとこ」。「に…にと…変化の結果を表す…により…原因理由を表す」。
文も歌も、藤原公任のいう「深き心」は、あれば、それぞれそれなりに聞こえるでしょう。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改訂しました)