婚外子の相続差別は違憲

2013-09-05 13:49:19 | 司法試験関連

非嫡出子の相続分に関する規定の違憲判決が出た。我々法律家からすれば,「ああ,やっと出たか」と言うのが正直な感想で,意外感は無く,「法令違憲出たー!!」という驚きも特にない。講義でも「法務省的にも家族法の改正時に間違いなく削除するであろう規定」という紹介をしてきた。つまり,法律論的には「以上」,見たいな感じである。

もっとも,正直釈然としないものを感じる人も居るのではないか。社説等も「当然の違憲判断だ」と言う論調なので,何とも言いにくいのだろうけど,「なんか正妻可愛そうじゃない」なんて感想を持ってもおかしくない。それが人間というものだ。

しかし,要は次元の異なる話なのである。非嫡出子の立場で考えれば,出生という自らの力では何ともできない事情で,最初から差をつけられるというのは,これを正当化するのは相当難しい。正に「生まれによる」差別である。これが法律論の次元。他方,釈然としないのは「感情論」の次元である。

実は一番悪いのは,不倫して外に子供を作った当のおやじさんである。誰が考えてもこいつが一番悪い。しかし既に亡くなっており,怒りをぶつけることはもうできない。その「怒り」の矛先が非嫡出子に向けられているだけである。いみじくも,敗訴した嫡出子のコメントがこのことを物語っている。

「母は法の規定を心の支えに40年間、精神的苦痛に耐えてきた。違憲判断は私たちにとって納得のできるものではなく、非常に残念で受け入れがたい」。気持ちは非常によく分かるが,だからといって,非嫡出子に不利益を押し付け,自分達は「溜飲を下げる」ということを正当化することはできない。

正妻としては,信じていた人に裏切られ,プライドが粉々に打ち砕かれたと感じているのは想像に難くない。人間なので当然である。しかしその怒りを向けるべき矛先は,自分を裏切った「亭主」であり,亭主と子作りした「不倫相手」である。非嫡出子に対してではない。法は,この2人に対して「溜飲を下げる」手立てを設けている。離婚して財産分与,慰謝料請求する,相手の女には不法行為に基づく損害賠償請求をする,という「法的な報復手段」が用意されている。相手の子供の相続分を半分にすることで,「憂さ晴らしする」と言うのは残念ながら筋違いである。

また,相続分一つとっても,妻の取り分は実は変らない。影響を受けるのは,嫡出子である。1200万の相続財産があれば,妻の取り分は600万であって,非嫡出子の取り分がどうなろうが影響を受けない。影響を受けるのは嫡出子の取り分だ。現行法では,400万と200万になるところ,300万ずつ相続することになるので,「実害」が出る。そういう意味でも,この問題に関しては,妻の不利益は「感情レベル」のものであって法的なレベルのものではないのである。個人的には,嫡出子は,どうも「親の敵討ち」を腹違いの兄妹にしているような印象を受けた。嫡出子も非嫡出子も被相続人である「父」との関係では「対等」であり差をつける要素はない。母親が誰だとかは関係ない。これは先妻・後妻の子供同士は母違いの兄弟等として対等だ,と言うのと同じ理窟である。

この戦前の「家制度」の香り濃厚な規定は,本来果たすべき役割を超えて,「家制度の維持」という大役まで負わされていたのである。それは本来負うべきものですらなかった。今ようやく,その呪縛から解かれることになったのである。

ともあれ,法律婚とは何ぞや,家族のあり方とは何ぞや,という問題を新ためて「感情レベル」で考えることの大切さを再認識させてくれた判決だと思った。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする