「原発のウソ」という本を読んでいる。非常に分かりやすい本で,2011年原発関連書籍年間ランキング1位というのも肯ける。「安全な被爆量などは存在しない」というのはインパクトがある。
著者は,小出裕章氏である。40年間,専門家としての目線から原発反対を主張してきた「戦士」である。ところが気になったのが,氏は,京都大学原子炉実験所の「助教」なのである。御年は63歳。で,助教というのは何事かと言う話なので,ちょいと調べたが,小出氏の「原発のウソ」については専門家からの批判も強いようである。「大学と電力業界による陰謀により、小出が昇進を阻まれてきた」という意見も反原発支持者の間では,根強いようだが,実際はそうでもないようである。
中々判断が難しい話である。改めて思ったのだが,やはり両サイドの意見をまず読むということだなと。反対派であれ,賛成派であれ,どちらかの考え,主張が正しいのだ,という所与の前提で見てはいけない。ただ,原発支持者からの氏の著作物への批判は,素人目からも「言われてみればそうだな」という部分もあるが,かといって氏が指摘している問題点全てが間違っているわけではないし,現にそのような批判はない,という点を注意しなければならない。一つ間違えがあれば言っていることは全て間違い,となるわけではない。かなり重要な問題提起をしており,やはり一読すべき書物のように思える。
しかし「原発のウソ」の中で驚いたのは,広島原爆で燃えたウランの量が800ミリグラムで,この時炸裂させたエネルギーで10万人の尊い命を奪った。これに対し,100万キロワットの原子力発電所は,1年間に1トンものウランを燃焼するというのである。これは10億ミリグラムだそうだ。東京電力の電力供給量は,5500万キロワット前後であるから,これを全部原発で賄うと,ウランを1年間で55トン燃焼させることになる。当然,ウラン55トン分の「死の灰」が生じるわけだが,放射能汚染物を安全にかつ完全にコントロールできる科学力を人類はまだ持っていない。推計によると,これまで日本の原発が生み出してきた総電力量は,7兆キロワットだそうで,放射能の減衰分を含めても,広島型原爆80万発分の死の灰が日本の何処かに貯まっていることになる。
これで本当に大丈夫なのか,と考えさせられてしまう。放射能の影響は,長いスパンで出てくることは広島・長崎の被爆者データからも明らかである。今は何事も無くても,10年後20年後にどうなるか,誰にも分からない。「神の火」とも言われる原子力。人間が神をコントロールすることなど最初から無理なのではないか,と改めて感じた次第である。原発について,もっと勉強しようと思う。