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明石のブルースマン「ハウリンメガネ」が誇る!「私のギター軍団」 (魅惑アイテムその2)「1929年製 ナショナル Style−O」

2019-10-31 12:18:47 | 「ハウリンメガネ」の「ヴァイナル中毒」&more

いやはや残暑が厳しいと思ったら急に冬の匂いが近づいてきたが皆様、体調はいかが?ハウリンメガネである。

Mash氏からの依頼により久々に番外編(盤外編!)をしたためている私である。

ということで、今回は前回好評だった番外編に引き続き、筆者の「愛用ギター紹介」パート2である!

今回紹介するのは私のスライド弾き語りでのメイン器!「1929年製、National Style-O "TONY"!」

見ての通り、メタル(ブラス)ボディにハワイアンな彫金が美しいリゾネイターギターだ。

(なおTONYとはこのギター右側にキリか何かで開けられたと思わしきサインから筆者がつけた愛称。

最初こそ「誰やねん、トニー。こんな穴開けやがって……」と思ったものだが、もはやこのTONYの文字を見るたび、このギターを弾いていたであろう顔も知らないトニーのことを思う。

どんな曲を弾いていたのだろう。チューニングは?誰のために弾いた?なぜ手放した?

ビンテージギターは不思議だ。時間も距離も超えた相手と対話することになる。閑話休題)

ちなみに諸君、リゾネイターギターという楽器そのものについてはご存知だろうか?

 

写真をご覧いただけばわかると思うがこれはアコースティックギターの一種である。

ただ、見てのとおり、一般的なアコースティックギターとは大きく異なる構造をもつ。

流石に近年では再評価も行われ、少しは楽器屋にも並ぶようになったが、おそらく見たことのない方もおられるだろうから、少々長くなるが、「そもそもリゾネイターギターとはなんなのか?」からご説明しよう。

ものすごーく単純に言えばリゾネイターギターとは「アコースティックギターの音量をもっと大きくできないか?」という要望から開発された、アルミ製スピーカーコーンを内蔵したギターである。

これが開発された当時(1920年代)、エレキギターはまだ発明されておらず、ギターといえばアコギの事を指していた。

やったことがある人なら分かるだろうが、アコギの生音というのはドラムやピアノ、ラッパなんかと一緒にプレイすると全くと言っていいほど客席に聴こえない!

当時のプレイヤーや、楽器職人達は考えた。 

「どうすればギターをもっと聴こえるようにできる?」

幾多のアイデアが生まれた。

マーティン社は主力商品をそれまで主流だったガットギターからスチール弦を張るためのギターに変え、ボディを大型化した(俗に言うドレッドノートサイズはマーティンが発祥である)。

ギブソンはアーチトップタイプが主力だったが、ボディサイズを大型化すると共により材にこだわり、良い鳴りをするギターの製作に勤しんだ。

他にも様々のメーカー、工房が「より大きな音を!」というユーザーの要望に応えようとした。

そんな中で一つのメーカーが生まれる。

ジョンとルディのドピエラ兄弟とジョージ・ビーチャムが設立したナショナル・ストリング・インストルメント社だ。

ドピエラ兄弟は他のメーカーと全く異なるアイデアで音量問題を解決しようとした。

 「ギターにスピーカーを仕込めばよいのでは?」

そう!これこそがリゾネイターギター誕生の瞬間であった!

リゾネイターギターの構造はこうだ。

ギターのボディ部にアルミで出来たスピーカーコーンが仕込まれており、その中央にギター弦を支えるブリッジが置かれる。

ギターの弦はちゃんと張ると強い張力(弦の太さにもよるが、だいたい50〜60kg)がかかる。

この張力によってブリッジがスピーカーコーンに押し付けられ、弦の振動がスピーカーコーンに伝わり、スピーカーコーンが振動することで音が増幅される=大きな音が出る!

という仕組みになる(つまりスピーカーのドライバーがギターの弦に置き換わったと考えればよい)。

 こうして大音量を出すことのできるリゾネイターギターは多くのプレイヤーに福音を与え、世界中で飛ぶように売れた……というわけではなかった。

その発音構造上、それまでのギターの音とは趣きの異なるリゾネイターギターは大音量がだせるギターというより新たな種類のギターとして受け入れられたというのが実情のようだ(そして実際に弾いてみると分かるが、一般的なアコギと比べれば確かに音はデカイが、バンドに混ざるとそこまでの差はない)。

どこか無骨でハスキーな色気のあるリゾネイターの音色は特にスライドプレイにマッチし、スライドを多用するブルース、カントリー、ハワイアンなどのプレイヤーに好意的に受け入れられた。

ナショナル社も何種ものリゾネイターを販売したが、開発者であるドピエラ兄弟とビーチャム氏との間で権利闘争が発生したらしく、ドピエラ兄弟はナショナル社を離れ、新たにドブロ(ドピエラ・ブラザーズの略)社を設立(これがリゾネイターギターがドブロギターとも呼ばれるようになった理由である)。

ナショナル社とドブロ社という二大メーカーによってリゾネイターギターは発展、販売を続けていたのだが、最終的には大音量が出せるギターの決定版であるエレキギターの誕生とともに売上が激減。ナショナル社は倒産、ドブロ社も身売りされ、リゾネイターギターという楽器は一部の愛好家を除き、世間から忘れられていってしまった……

と、まあ中々に塩辛い歴史を持つリゾネイターギターなのだが、そのサウンドやルックスは強烈な魅力を持っており、それに惹かれる愛好家は多い(故に如何に流行りが廃れようとも現代まで生き残ったといえよう)。

有名どころのミュージシャンはメインギターではなくとも、間違いなくリゾネイターを一本は持っている。

クラプトンやキースなんかはステージ、レコーディング問わず使っているし、意外なところではジョンもソロ時代に使っている写真が存在する。マーク・ノップラーに至ってはダイアー・ストレイツ時代にアルバムジャケットをリゾネイターの写真にしてしまうほどの愛好家だし(筆者のもの同様NationalのStyle-Oだ!)、ロリー・ギャラガーやジョニー・ウィンターも愛用者として有名だ。

ブルースにおいては枚挙にいとまがないが、筆者としてはやはり、ブッカ・ホワイトとサン・ハウスというメタルリゾネイター使い二大巨頭の名前を出さざるを得ない!

何故筆者がリゾネイター、それもナショナル製のものを手にしたか。

そう!このコラムの筆者紹介で名前が挙げられているマイ・フェイバリット・ブルースマン、サン・ハウス!そして名前は挙がっていないがブッカ・ホワイト!彼らがこれを抱えていたからに他ならない!

筆者の中でブルースギター=メタルボディのリゾネイター!という公式が出来上がったのはこの二人の影響なのである。

だが、正確にいうと実はサン・ハウスもブッカ・ホワイトもメインで使っていたリゾネイターは同じナショナル社製でもデュオリアンというモデルであり、厳密には筆者のものとは異なる(デュオリアンはスチールボディ。筆者のStyle-Oは前述の通り、ブラスボディである。Style-Oも使われていたらしいのだが、少なくともサン・ハウスのレコードを聴くと彼はやはりデュオリアンユーザーだったと思われる。聴けば分かるがもろに鉄板!な音なのだ。ブッカ・ホワイトはStyle-Oらしい柔らかさのある録音も多いのだけどね)。

では、何故筆者はデュオリアンではなく、Style-Oを購入したのか?

このリゾネイターもいつもの如く、Mash氏に譲ってもらったギターなのだが、氏にリゾネイターが欲しい、と相談したとき、私は氏にデュオリアンを持ってないかと訊いたのだ。

氏の応えはこうであった。

「持ってるけど、お前には合わないんじゃないかなぁ。あれ、ほんとに鉄板の音しか出ないんだよ。Style-Oの方が柔らかい音も出るしそっちの方がいいと思うよ?」

ふーん、そういうものか。それならば。ということで、まずはStyle-Oを準備してもらい、気に入らなければデュオリアンを試す運びとなった。

後日。

用意されたこのギターを見た瞬間

(うわぁ、キラキラに光ってるじゃないか……カッコ良すぎる……)

というのが、私のファーストインプレッションであった(笑)。

もうこの時点で欲しくなっているのだが、とはいえ、音が気に入らなければ買うわけにはいかない。

オープンGにチューニングし、スライドバーを滑らせる。

(あ、俺の欲しかった音だ……)

そう、流石Mash氏は筆者のことをよく分かっていた。

そもそも何故筆者はリゾネイターの音に心惹かれるようになったのか。話はさらに過去に遡る。

筆者が中学生の頃、深夜にトライガンというアニメが放送されていた。

マンガ大好き少年だった筆者は毎週楽しみに見ていたのだが、このアニメ、音楽にやたらギターの音が使われており、その中でも筆者の脳裏に強く印象に残ったがブルージーなアコースティックスライドの曲だった(今もサントラを持っているので聴き返してみたらおそらくだが、ウッドボディのリゾネイターと思わしき音であった。なお、後になって知ったのだが、劇中歌担当は今堀恒雄氏。そう、菊地成孔氏と共にフリージャズグループ、ティポグラフィカを創設した名ギタリストだったのである。いい音出してた訳だ)。

筆者はその音のイメージを元にスライドギターの名手達を遡り、サン・ハウスとブッカ・ホワイトにたどり着いた……

そう、つまり憧れはメタルボディなれど、欲しい音色は柔らかさのあるもの、という、筆者の要求ドンピシャのものがこのStyle-Oだった訳である(とはいえ、このStyle-O、柔らかいだけではなく、鉄板らしさもきちんと感じさせてくれる。ハウス師ばりにスナップを効かせて弾けばバッチバチの、"あの音"も当然出る。結構万能なのだ)。

斯くしてこの"TONY"は筆者のメインギアとなり、今日も私の膝の上で美しく、激しくその音色を響かせているのであります。

 

スライドギターはやはり良い。

それもリゾネイターならなお良い(笑)。

オープンチューニングの弦の上をスライドバーを滑らせるだけで嬉しくなる。

 

ギタリスト諸君、やはり男は滑らしだ!

いや、女性も滑らしだ!

人類皆滑らしだ!滑らしこそが人生だ!

 

Slide 4 your life!ハウリンメガネでした!