10月に入ったというのに残暑が厳しいがお元気かな?
読者諸賢、ハウリンメガネである。
突然だが、みなさんマーク・ボラン(T.Rex)はお好き?
おそらくだが「誰だっけ?あー!あの映画の曲の人かー!」という人が5割。
「たしかグラムロックのひとでしょ?」という人が2割。
「ゲットイットオンとかカッコいいよね!」という人が2割。
「いや、エレクトリック期もいいけど、やっぱりティラノサウルス・レックス時代が…」と言い出すマニアが1割!である。
前述の通り、以前マンガ及びそれを原作にした映画「20世紀少年」のテーマソングにド派手なリフが印象的な「20st century boy」が取り上げられたこともあり(というかマンガがT.Rexの同曲を元ネタにしているのだけどね。なにせ作者の浦沢直樹氏はロックファン、ボブファンとしても有名。なお個人的に氏の作品では「Masterキートン」が好き。閑話休題)
一部では「すわT.Rexブーム到来か!?」という希望的観測(もとい大いなる勘違い)がもたらされたが、当然そんなことは起こらず(苦笑)、知名度としては今も依然「好きな人は知っている」というレベルに留まっている。それがマーク・ボランという人であり、T.Rexというバンドである…
確かに「20st century boy」や、「solid gold easy action」に代表されるように派手なビジュアルでこれまた派手々々しいギターリフをブチかまし、グラムロックのフォーマットを作り上げたのは間違いなくT.Rexだが、そもそも彼らがロックバンドではなかったことを諸君はご承知だろうか?
そう、T.Rexはもとは前述のとおり、ティラノサウルスレックスを名乗るギター&パーカッション二人組みのフォークデュオだったのだ。
そう!今回ご紹介するのは彼らがT.Rexに変わる前のティラノサウルスレックス時代の4枚。
[1st] My People Were Fair And Had Sky In Their Hair, But Now They're Content To Wear Stars On Their Brows
[2nd] Prophets, Seers And Sages, The Angels Of The Ages
[3rd] Unicorn
[4th] A Beard Of Stars
をパッケージにまとめた80年代UKリシュー盤である!(写真: 正確には1st&2nd、3rd&4thの2in1二組)
どうしても世間的にはエレクトリックの印象が強いマーク・ボランだが、そもそも、彼の好きな音は何だったのか?
ビートルズ(特にジョン)や名前の元となったボブ(彼のボランという名前は芸名で、ボブ・ディランを縮めたもの)はもちろんだが、実は(私が名前を拝借させてもらった)ハウリン・ウルフをはじめとしたブルース、それもフォークブルースをかなり好んでいたらしい(ある意味において私は彼と同じ文脈にいるということになるのだなぁ)。
そんなマーク・ボランはエレクトリック化する以前、どんな音を出していたのか?いや、これがまた見事に美しい、ため息が出るようなサイケデリックフォークなのである。
1stから3rdまではボランとスティーヴ・ペレグリン・トゥックというパーカショニストの二人で製作しているのだが、ボランとトゥックの二人だけの音でどこまでやれるのかを徹底的に追求したようなアルバムに仕上がっており、ボランのジョン譲りの美しいコード使いやダブルトラック(多重録音)を多様して声をハーモナイズするテクニック(これはこの頃からプロデューサーについていたトニー・ヴィスコンティのアイデアかな?)、特にコードの使い方についてはアコースティックギターの美味しいところを引き出すようなプレイで、ジョンに負けるとも劣らない、変幻自在に揺蕩うような雰囲気をアコギ一本で表現しており素晴らしい(何というかモノクロームの美しさとでもいおうか、激しい美しさを抑えることで生まれる美というか)。
トゥックについても実は凄い人で、この人、手数は多いのに不要な音は鳴らさないという素晴らしいバランスを保っており、アコースティックギターとパーカッションという組み合わせだと感じがちな音の物足りなさや、逆に叩きすぎによる過剰さを感じさせない、ジャストな音を鳴らせる職人肌なパーカッショニストである。
いや、まったく、アコースティック楽器で音楽をやろうという人なら絶対聴いた方がいいと断言できる3枚なのだ。(実際私も3rdのユニコーンはこの盤とは別に所持しており、かなり聴き込んだ。そういえば奥田民生さんが所属するバンドであるユニコーンもこの3rdアルバムから名前をとったそうな。みんな好きだねぇ(笑))
ところが4thでトゥックが脱退し、ボランの相棒がミッキー・フィンに変わってからティラノサウルスは小さな、だが大きな変化を見せる。
そう、エレクトリックギターの導入である。(同時にこの辺りからトニー・ヴィスコンティの発言権が強くなって来たと思われる)
4thアルバムでは3rdまでの流れ、つまりアコースティック楽器によるデュオ編成でどこまでやれるかというよりも「どうすれば二人以上の音を出せるか」に焦点が当てられたように感じる(このあたりはトゥックとフィンの気質の違いも大きいだろうが)。
というのもこのアルバムではボランもフィンも自身のパートにこだわらず楽器を使っているのだ。エレキギターの音は当然として、オルガンの音も聴こえればベースの音もする。
ただ、全体としてはアコースティック楽器の音が強く、エレキギターも後々のT.Rex的なガーン!としたプレイよりも歌に対するメロディラインを足すような使われ方が基本で、まだ「ティラノサウルスレックス」の空気が多く残っており、アコースティックとエレクトリックの過渡期で生まれた、グラムロックのT.Rexとサイケデリックフォークのティラノサウルスレックスのミッシングリンクを繋ぐ良作、それが4thアルバムであると言えよう。
この「二人以上の音を出すにはどうすれば良いか」という方向性が4th発表後のベースとドラムの加入に繋がり、ボランはアコースティックギターからエレキギターへ持ち替え、ティラノサウルスレックスはT.Rexとなり、美しいアシッドフォークは爆発するエレクトリックブギーへと変化していくのであるが……ではこの美しいアシッドフォークを作り出した男はグラムロックの狂乱の中でどう変わったのだろうか?
次回!マーク・ボラン、エレクトリック篇!乞うご期待!
ハウリンメガネでした!また次回!