「声の医療」の専門家である東海大学東京病院・ボイスクリニック(東京都渋谷区)非常勤
教授の福田宏之さんは「声帯は性ホルモンの影響を受けるため男女によって声の高さが
異なるほか、口腔(こうくう)や鼻腔(びくう)の形状などで声の特徴が決まる」と話す。
そうした「自分の声」の変化は、声帯や周囲の組織に何らかの異変が起きたサインでもある。
専門家は大きく分けて3つの要因があるという。
1つ目は、声帯にコブ(腫れ物)状のものができた場合だ。
いわばピアノの弦に異物を乗せて音を出したような状態で、いわゆるだみ声、ガラガラ声となる。
声帯ポリープや声帯結節などが代表的で、普段から大声を出す職業で多く見られるそうだ。
このほか声帯部の腫瘍が原因で同様の声になる場合もあるという。
2つ目は、声帯を閉じる機能の異常だ。声帯が完全に閉じないため、息が漏れるような声となる。
加齢とともに起こる症状でもあるので、高齢者のしわがれ声の原因でもある。
声帯に関係する神経の障害で起こる声帯の運動まひによっても起こる可能性があるほか、
甲状腺がん、食道がんなど声帯に近い組織で起きている病気が影響している場合もあると
いう。
3つ目は、声帯粘膜の物理的性質の変化。喫煙などが原因で起きる声帯白斑症にかかると、
粘膜のしなやかさが失われ、ノドに力が入ったときのような「硬い声」となる。
この病気は「がんの予備軍」ともされる。
■乾燥に注意を
声帯を乾燥しにくくする方法としては、暖房している部屋ではこまめに水分を補給するほか、
加湿器を使って湿度を保つことなどがある。とくにノドが弱いと感じている人は対策が必要。
飛行機やホテル内など乾燥しやすい場所ではマスクをかけるなどの手がある。
声帯が乾燥する原因ともなるのが喫煙。低いだみ声になることもあるポリープ様声帯は
ヘビースモーカーに多いとされる。
仕事などで大きな声を出すことが多い人や、カラオケが好きな人は、声帯を上手に休める
コツを学びたい。福田さんは「高い声を出すとき声帯は1秒間に千回以上も振動する。
喉頭からは、声帯を冷却する声門上気道液が分泌されるが、長時間連続して声帯を使うと
冷却が間に合わなくなる」と話す。
適切に声帯をクールダウンすることで声のトラブルを避けることができるというわけだ。
たとえばカラオケをする場合でも、あまり何曲も連続で歌わない。休みを挟みながら、
アメなどを口にするのもいいだろう。
セミナーなどで講演する機会の多い人も声帯を酷使しがちだ。講演会で長い時間話す場合は、
ビデオをつかったプレゼンテーションを組み合わせるなどして、声帯を休ませる時間をつくりたい。
■酷使は控えて
耳鼻咽喉科では喉頭鏡などを使って声帯を直接診断することができる。そして、声を取り戻す
ために、より専門的な医療が必要な場合は、音声外来やボイスクリニックなどの専門外来を
紹介されることもある。専門外来では、喉頭の病気に詳しい音声外科医のほか、声帯の負担の
少ない声の出し方などを指導する専門家などがチームとなって治療に当たっている。
日常生活のなかで、知らず知らずのうちに酷使していた声帯。自分の声を守るために、まずは
声帯に優しい生活を心がけるようにする。もし、声の異常に気づいたら、早めに医師に相談
することが大切だ。
(2015年1月3日 日本経済新聞)