永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1074)

2012年02月23日 | Weblog
2012. 2/23     1074

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(45)
 
 北の方が、

「さらに御心をば隔てありても思ひきこえさせ侍らず。かたはらいたうゆるしなかりし筋は、何にかかけてもきこえさせ侍らむ。その方ならで、思ほし放つまじき綱も侍るをなむ、とらへ所に頼みきこえさする」
――あなたさまのお志に、分け隔てがおありになるとは、まったく思っておりません。故八の宮が浮舟をお子とお認め下さらなかったことは、今更何をわたしがとやかく申し上げましょう。それは別としまして、あなた様が私をお見棄てなさる筈のない身内の御縁を頼みに、御すがりしているのでございます――

 などと、くどくどと申し上げ、

「明日明後日かたき物忌に侍るを、おほぞうならぬ所にてすぐして、またも参らせ侍らむ」
――明日と明後日はきびしい物忌にあたりますから、しかるべき静かな所で過ごさせまして、いずれまた参上させましょう――

 と言って、浮舟を連れて帰ります。

「いとほしく本意なきわざかな、とおぼせど、えとどめ給はず。あさましうかたはなることにおどろき騒ぎたれば、をさをさ物もきこえで出でぬ」
――(中の君は)可哀そうに、不本意なこととお思いになりますが、強くは御引き留めになりません。北の方の方では、以外にも怪しからぬ事件が起こったと、あわてふためいていますので、ろくろくご挨拶もせずにお暇をします――

「かやうの方違へどころと思ひて、ちひさき家設けたりけり。三條わたりに、ざればみたるが、まだつくりさしたる所なれば、はかばかしきしつらひもせでなむありける」
――(北の方は)このような方違えの時の場所と思って、小さい家を用意してありました。三條のあたりに、ちょっと洒落てはいますが、まだ造りかけのところで、これという設備もしてありません――

 北の方は、

「あはれこの御身ひとつを、よろづに持てなやみきこゆるかな。心にかなはぬ世には、あり経まじきものにこそありけれ。みづからばかりは、ただひたぶるに、品々しからず人げなう、さる方にはひ籠りてすぐしつべし…」
――ああなんと、この方一人のために、なにかと苦労が絶えないことか。ままならぬ世の中には、長生きなどしたくないものです。私だけなら、ただ一途に、人並みにもてなされなくても、それはそれで、ひたすら世間の片隅に引き籠もっても暮らしましょうが…――

 と言って、さらに…

◆おほぞうならぬ所=(おほぞう=普通、通り一辺)=通り一辺でない特別な所

◆ざればみたる=戯ばみたる=ふざけた、洒落た

では2/25に。