永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1070)

2012年02月15日 | Weblog
2012. 2/15     1070

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(41)

 さらに、中の君はしみじみと、

「わが身のありさまは、飽かぬこと多かる心地すれど、かくものはかなき目も見つべかりける身の、さははふれずなりにけるにこそ、げにめやすきなりけれ、今はただこの憎き心添へる人の、なだらかにて思ひ離れなば、さらに何ごとも思ひ入れずなりなむ、とおもほす」
――私の身の上も不満なことも多いような気がしますが、運次第では浮舟同様、つまらない目にも逢う筈だった身が、そうは落ちぶれずにすんだことは、まことに幸運なことであった。今はただ薫大将が自分に寄せておいでの、困った恋心を穏やかに鎮めてくださるなら、もうほんとうに物思うこともなくなるであろうに、とお思いになるのでした――

「いと多かる御髪なれば、とみにもえ乾しやらず、起き居給へるも苦し。白き御衣一襲ばかりにておはする、細やかにてをかしげなり」
――(中の君は)たいそう御髪が多いので、すぐに乾かすことができず、起きていらっしゃるのもお辛そうです。白い御衣を一重ねだけお召しになっていらっしゃる御姿が、ほっそりとして美しい――

「この君はまことに心地あしくなりにたれど、『いとかたはらいたし。事しもあり顔におぼすらむを、ただおほどかにて見えたてまつり給へ。右近の君などには、事のありさまはじめより語り侍らむ』と、せめてそそのかし立てて、こなたの障子のもとにて、『右近の君に物きこえさせむ』と言へば」
――(こちらの浮舟は)ほんとうにご気分も冴えないでいらっしゃるので、乳母が、「それでは、まことに見苦しゅうございます。上様(中の君)には何かあったように思われましょう。ただ何気なくご対面なさいませ。右近の君には、はじめから事の次第をお話しましょう」と、無理におすすめして、まず自分がこちらの障子口で、「右近の君に申し上げたいことがございます」と言いますと――

「立ちて出でたれば、『いとあやしく侍りつる事の名残りに、身もあつうなり給ひて、まめやかに苦しげに見えさせ給ふを、いとほしく見侍る。御前にてなぐさめきこえさせ給へ、とてなむ。あやまちもおはせぬ身を、いとつつましげに思ほしわびためるも、いささかにても世を知り給へる人こそあれ、いかでかは、と、ことわりにいとほしく見たてまつる』とて、引き起こして参らせたてまつる」
――(右近の君が)立って出てきましたので、乳母が、「まことに妙な事が起こりましたせいで、姫君はお熱が出て、ほんとうに苦しそうで、おいたわしゅうございます。上様(中の君)からお慰め申していただきたいと存じまして。何の間違いもおありになりませんでしたのに、たいそう恥ずかしそうに滅入っておられますのも、少しでも男を知っておられる人ならともかく、そうではない方だけに、お悩みになるのも尤もなこととお気の毒で」と言ってから、伏せっておいでの浮舟を無理にも起されて、中の君の御前にお連れ申されます――

では2/17に。