永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1065)

2012年02月05日 | Weblog
2012. 2/5     1065

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(36)

「女の心合はせ給ふまじきこと、とおしはからるれば、『げにいと見苦しきことにも侍るかな。右近はいかにかきこえさせむ。今参りて、御前にこそは忍びてきこえさせめ』とて立つを、あさましくかたはに誰も誰も思へど、宮はおぢ給はず」
――浮舟が御承知なさるわけはないと、推し量られますので、右近は「本当に見苦しいことでございますね。私は申し上げる言葉もございません。早速参って、上(中の君)に申し上げましょう」と言って立ちあがりますのを、そんなことは困ったことだと、誰も誰も思うのですが、匂宮は動じる様子もない――


「あさましきまで、あてにをかしき人かな、なほ何人ならむ、右近がいひつるけしきも、いとおしなべての今参りにはあらざめり、と心得がたくおぼされて、と言ひかく言ひうらみ給ふ。心づきなげにけしきばみてももてなさねど、ただいみじう死ぬばかり思へるが、いとほしければ、なさけありてこしらへ給ふ」
――(匂宮はお心の中で)呆れるほど上品で、美しい人だ。いったいどういう人なのか。右近が大騒ぎしている様子からも、普通の新参の女房ではないらしい、と怪訝に思われて、手を変え品を変えて、口説いていらっしゃる。あらわに厭わしげな素振りはお見せになりませんが、ただもう死にそうに辛がっているこの人の様子が可愛そうですので、やさしく慰めていらっしゃる――

 右近が、中の君に「宮が、こうこうしていらっしゃいます。お気の毒に浮舟はどうしていらっしゃいますことか」と申し上げますと、中の君は、

「『例の、心憂き御さまかな。かの母も、いかにあはあはしく、怪しからぬさまに思ひ給はむとすらむ。後やすく、と、かへすがへす言ひ置きつるものを』と、いとほしく思せど、いかがきこえむ」
――「例のよくないお癖が出て…。浮舟の母親も、宮の御態度を、どんなにか軽率で、怪しからぬようにお思いになることでしょう。安心してお任せしますと、くれぐれも言い置いて行ったものを」と、気の毒に思いますものの、どう宮に申し上げたものか――

 さらに、お心の内で、
「さぶらふ人々もすこし若やかによろしきは、見棄て給ふなく、あやしき人の御癖なれば、いかがは思ひ寄り給ひけむ、と、あさましきに、物も言はれ給はず」
――お側の女房たちのなかで、すこし若やいで見目のよい者がいますと、お見逃しにならない、忌まわしいお心癖ではあるものの、でも一体どうして浮舟にお近づきになったのかしら、と、余りの事に呆れて、ものもおっしゃれないのでした――

◆おぢ給はず=怖じていらっしゃらない

◆女郎花色(おみなえしいろ)

では2/7に。