2011. 7/21 975
四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(36)
さて、
「宮は女君の御ありさま、昼見きこえ給ふに、いとど御志まさりにけり。おほきさよき程なる人の、様体いときよげにて、髪のさがりば頭つきなどぞ、ものよりことに、あなめでた、と見え給ひける。色あひあまりなるまでにほひて、ものしくけだかき顔の、まみいとはづかしげにらうらうじく、すべて何事もたらひて、容貌よき人と言はむに飽かぬところなし」
――匂宮は、六の君のご容姿を昼間の明りでご覧になって、いっそうご愛情が勝るのでした。程良い背丈で姿かたちがたいそう美しく、前肩に垂れ下げた髪の具合や頭(かしら)つきなど、他のどんな女より優れており、なんと綺麗なことだ、とご覧になるのでした。肌の色合いが驚くほど艶々として、見栄えのするお顔立ちの、目元はこちらが恥ずかしくなるほど実に美しく上品で、しかもなにもかも備わっていて、美人として足りないところはない――
「二十にひとつふたつぞ余り給へりける。いはけなき程ならねば、かたなりに飽かぬところなくあざやかに、盛りの花と見え給へり。かぎりなくもてかしづき給へるに、かたほならず。げに親にては、心もまどはし給ひつべかりける」
――御歳は二十を一つか二つ越していらっしゃる。幼いというお歳ではないので、お身体もふくよかに、申し分なく成熟されていて今を盛りの花とお見受けされます。夕霧が大切に養育されただけに、非の打ちどころもないのでした。なるほど親としては無我夢中になられる筈だ――
「ただ、やはらかに愛敬づきらうたきことぞ、かの対の御方は先づ思ほし出でられける」
――だがしかし、柔和で愛嬌があり、可憐な点では、やはりあの中の君が真っ先に思い出されるのでした――
「物のたまふいらへなども、はじらひたれど、またあまりおぼつかなくはあらず、すべていと見どころ多く、かどかどしげなり。よき若人ども三十人ばかり、童六人、かたほなるなく、装束なども、例のうるはしきことは、目馴れて思さるべかめれば、引きたがへ、心得ぬまでぞ好みそし給へる」
――(六の君が)匂宮にたいしてお返事されることも、恥じらいながらも、物怖じするということもなく、何かにつけて程よい状態で、賢そうでもある。立派な若い女房を三十人、童が六人と、いずれも醜い者はおらず、着ている衣裳も並み一通りでは見栄えがしないであろうと、目先を変えての度外れなまでに趣向を凝らしています――
「三條殿腹のおほい君を、東宮に参らせ給へるよりも、この御ことをば、ことに思ひおきてきこえ給へるも、宮の御おぼえありさまがらなめり」
――雲居の雁腹の大君を、東宮に差し上げられた時よりも、夕霧が六の君のご婚儀を格別にお世話なさるのも、匂宮の御声望やお人柄によるものであろう。(将来は東宮かと)
◆かたほならず=不完全なところがない。
◆心もまどはし給ひつ=無我夢中になって
◆かどかどし=賢い
◆かたほなるなく=不完全でなく=器量の悪い者はいない
◆三條殿腹のおほい君=三條殿(夕霧の正妻・雲居の雁)腹の長女の大君。東宮に嫁した。
では7/23に。
四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(36)
さて、
「宮は女君の御ありさま、昼見きこえ給ふに、いとど御志まさりにけり。おほきさよき程なる人の、様体いときよげにて、髪のさがりば頭つきなどぞ、ものよりことに、あなめでた、と見え給ひける。色あひあまりなるまでにほひて、ものしくけだかき顔の、まみいとはづかしげにらうらうじく、すべて何事もたらひて、容貌よき人と言はむに飽かぬところなし」
――匂宮は、六の君のご容姿を昼間の明りでご覧になって、いっそうご愛情が勝るのでした。程良い背丈で姿かたちがたいそう美しく、前肩に垂れ下げた髪の具合や頭(かしら)つきなど、他のどんな女より優れており、なんと綺麗なことだ、とご覧になるのでした。肌の色合いが驚くほど艶々として、見栄えのするお顔立ちの、目元はこちらが恥ずかしくなるほど実に美しく上品で、しかもなにもかも備わっていて、美人として足りないところはない――
「二十にひとつふたつぞ余り給へりける。いはけなき程ならねば、かたなりに飽かぬところなくあざやかに、盛りの花と見え給へり。かぎりなくもてかしづき給へるに、かたほならず。げに親にては、心もまどはし給ひつべかりける」
――御歳は二十を一つか二つ越していらっしゃる。幼いというお歳ではないので、お身体もふくよかに、申し分なく成熟されていて今を盛りの花とお見受けされます。夕霧が大切に養育されただけに、非の打ちどころもないのでした。なるほど親としては無我夢中になられる筈だ――
「ただ、やはらかに愛敬づきらうたきことぞ、かの対の御方は先づ思ほし出でられける」
――だがしかし、柔和で愛嬌があり、可憐な点では、やはりあの中の君が真っ先に思い出されるのでした――
「物のたまふいらへなども、はじらひたれど、またあまりおぼつかなくはあらず、すべていと見どころ多く、かどかどしげなり。よき若人ども三十人ばかり、童六人、かたほなるなく、装束なども、例のうるはしきことは、目馴れて思さるべかめれば、引きたがへ、心得ぬまでぞ好みそし給へる」
――(六の君が)匂宮にたいしてお返事されることも、恥じらいながらも、物怖じするということもなく、何かにつけて程よい状態で、賢そうでもある。立派な若い女房を三十人、童が六人と、いずれも醜い者はおらず、着ている衣裳も並み一通りでは見栄えがしないであろうと、目先を変えての度外れなまでに趣向を凝らしています――
「三條殿腹のおほい君を、東宮に参らせ給へるよりも、この御ことをば、ことに思ひおきてきこえ給へるも、宮の御おぼえありさまがらなめり」
――雲居の雁腹の大君を、東宮に差し上げられた時よりも、夕霧が六の君のご婚儀を格別にお世話なさるのも、匂宮の御声望やお人柄によるものであろう。(将来は東宮かと)
◆かたほならず=不完全なところがない。
◆心もまどはし給ひつ=無我夢中になって
◆かどかどし=賢い
◆かたほなるなく=不完全でなく=器量の悪い者はいない
◆三條殿腹のおほい君=三條殿(夕霧の正妻・雲居の雁)腹の長女の大君。東宮に嫁した。
では7/23に。