永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(965)

2011年07月01日 | Weblog
2011. 7/1      965

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(26)

 六の君にお逢いしてみると、

「さやうなる御けはひにはあらぬにや、御志おろかなるべくもおぼされざりけり。秋の夜なれど、更けにしかばにや、程なく明けぬ」
――実際は、そうでなかったのでしょう。六の君へのご愛情は、いい加減にしておこうなどというものではなかったのでした(たいそう気に入られて)。秋の夜長ではありましたが、更けてからお出でになったせいか、間もなく夜も明けたのでした――

「帰り給ひても、対へはふともえ渡り給はず、しばし大殿ごもりて、起きてぞ御文書き給ふ。『御けしきけしうはあらぬなめり』と、御前なる人々つきじろふ」
――(匂宮は)二條院に帰られても、対へはすぐにもお渡りにならず、しばらくお寝すみになってから、お起きになって六の君に後朝の御文をお書きになります。「ご機嫌は悪くなさそうですこと(六の君を気に入られたようですね)」と、お側に仕える侍女たちは、目引き、袖引き合っています。――

「『対の御方こそ心ぐるしけれ。天の下にあまねき御心なりとも、おのづからけおさるることもありなむかし』など、ただにしもあらず、皆馴れ仕うまつりたる人々なれば、安からずうち言ふ事どももありて、すべてなほねたげなるわざにぞありける」
――「(女房たちは)対の御方(中の君)こそ、ほんとうにお気の毒ですこと。どんなに匂宮がお二人を分け隔てなく平等に愛されるおつもりでも、御相手が左大臣の御姫君であってみれば、自然、六の君に厭倒される事にもなるでしょうし」などと、とても平常ではいられず、いずれも以前から中の君に親しく仕えている人たちなので、癪にさわってとやかく言う者もいて、何もかも妬ましく思っている様子です――

 匂宮は、

「御返りも、こなたにてこそは、とおぼせど、夜の程のおぼつかなさも、常のへだてよりはいかが、と、心ぐるしければ、いそぎ渡り給ふ」
――(後朝のお便りに対しての)六の君からのお返事を、このままこのお部屋で待っていたいと思いながらも、昨夜一晩空けてしまった中の君へのご心配もあって、いつもの不在の様子とどう違うのか気になられて、急いで中の君の対にお渡りになります――

「寝くたれの御容貌、いとめでたく見どころありて、入り給へるに、臥したるもうたてあれば、すこし起きあがりておはするに、うちあかみ給へる顔のにほひなど」
――中の君の寝起きのお顔が、まことに美しく見映えがして、匂宮が来られたので、臥していますのも具合悪く、少しお起きになるそのご様子は、お顔にほんのり赤味がさして、今朝は格別美しい――

◆ふともえ渡り給はず=ふと・も・え、渡り給はず=ほんのちらりともまったくお渡りにならず。

◆つきじろふ=突きしろふ=互いに膝などをそっと突きあう。

では7/3に。