永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(967)

2011年07月05日 | Weblog
2011. 7/5      967

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(28)

中の君は、

「日ごろも、いかでかう思ひけりと見え奉らじ、と、よろづにまぎらはしつるを、さまざまに思ひ集むる事し多かれば、さのみもえもて隠されぬにや、こぼれそめては、とみにもえためらはぬを、いとはづかしくわびし、と思ひて、いたく背き給へば、しひてひきむけ給ひつつ」
――この日頃、何とかして自分がこのように匂宮をお恨み申しているなどとは、決してお見せ申すまいと、万事に気を紛らわしてはいらっしゃるものの、さまざまな思いがこみ上げてきて、もはや抑え切れなくなったのでしょう、一度涙がこぼれ出すと急には止められず、恥ずかしく辛いこととは思いながら、お顔を背けておいでになります。それを匂宮は無理にもご自分の方にお引き向けになって――

「『きこゆるままに、あはれなる御ありさまと見つるを、なほへだてたる御心こそありけれな。さらずば夜の程におぼし変わりにたるか』とて、わが御袖して涙をのごひ給へば」
――「あなたは私が申し上げることを素直に聞いてくださる可愛い方だと思っていましたのに、やはり私に隔て心がおありだったのですね。そうでなければ一夜のうちに心変わりなさったのですか」と、おっしゃって、ご自分の御袖で中の君の涙を拭いてさしあげます――

 匂宮のやさしさに、

「夜の間の心がはりこそ、のたまふにつけて、おしはかられ侍りぬれ」
――「あなたこそ一夜のうちに心変わりされたということが、今おっしゃったお言葉でよくよく分かりました」――

 と少し微笑まれます。つづけて匂宮が、

「げにあが君や、をさなの御物いひやな。されどまことには心に隈のなければ、いと心やすし。いみじくことわりしてきこゆとも、いとしるかるべきわざぞ。むげに世のことわりを知り給へはぬこそらうたきものから、わりなけれ」
――なんと可愛らしい人よ。それは他愛のない言いがかりというものですよ。こちらは実際には心に隠すところはありませんから、まことに平気なものです。うまく理屈を合わせて申したところで、嘘か本当かははっきりするものでしからね。あなたは全く夫婦の道をご存知ないのは、可愛いけれども困ったものだ――

では7/7に。