永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(945)

2011年05月23日 | Weblog
2011. 5/23      945

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(6)

「かかることを、右の大殿ほの聞き給ひて、六の君はさりともこの君にこそは、しぶしぶなりとも、まめやかにうらみ寄らば、つひにはえいなび果てじ、とおぼしつるを、おもひのほかのこと出で来ぬべかなり、と、妬くおぼされければ、兵部卿の宮はた、わざとにはあらねど、折々につけつつ、をかしきさまにきこえ給ふことなど絶えざりければ」
――このようなことを夕霧はちらっとお耳にされて、六の君は是非ともこの薫に縁づけたいものだ。薫が渋々であっても、こちらが熱心に頼みこんだならば、結局は断り切れまいと思っていたのに、意外な成り行きになってしまいそうだと残念でならない。それならばやはり匂宮が取り立てて趣きのある程ではないけれども、折々にそれなりのお手紙を下さることだし――

「さばれ、なほざりのすきにはありとも、さるべきにて、御心とまるやうもなどなからむ、水もるまじく思ひさだめむとても、なほなほしき際にくだらむ、はた、いと人わろく、飽かぬ心地すべし、などおぼしなりたり」
――ままよ、匂宮の一時的な浮気心だとしても、何かの御縁でお心のとまるようにならぬとも限らない。水も漏らさぬ情の深い相手を選んだとて、つまらない身分の者では、また世間での外聞も悪く、後々こちらとしても不満が残ろう、などとつくづくとお考えになるのでした――

 夕霧が明石中宮(腹違いの御妹)に、

「『女子うしろめたげなる世の末にて、帝だに婿もとめ給ふ世に、ましてただ人の盛り過ぎむもあいなし』など、そしらはしげにのたまひて、中宮をもまめやかにうらみ申し給ふこと、かびかさなれば、きこしめしわづらひて」
――「この頃は、女子(おんなご)を持てば心配な世の中で、帝でさえ、内親王に婿をお求めになる世ですから、まして我々臣下の娘が婚期を逃してしまいそうなのは、全く困ったものです」などと、帝に対して非難申し上げるような口調で、明石中宮にも真剣に匂宮をこちらの婿にお願いしたいことを度々申し上げますので、中宮もお聞き流しになれず、お困りになっておられ――

 匂宮をお呼びになって、

「いとほしく、かくあふなあふな、思ひこころざして年経給ひぬるを、あやにくにのがれきこえ給はむも、なさけなきやうならむ。…」
――お気の毒にも夕霧右大臣が、こうして長い月日を、断られでもしまいかとご心配になられながらも望んでこられたものを、あなたが意地悪く逃げ回られるのも、情け知らずのようでしょう…――

◆夕霧の官名が右大臣や左大臣と表記に混乱がありますが、原文のままにしておきます。

◆そしらはしげに=謗らはし=誹りたいようすで、けなしたいさまに。

◆まめやかにうらみ申し給ふ=忠実やかに・うらみ・申し給ふ=真面目に、本気で愚痴を申されるので。

◆あふなあふな=身の程に従って。あぶなあぶなと読めば「恐る恐る」となる。

では5/25に。