永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(857)

2010年11月25日 | Weblog
2010.11/25  857

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(34)

 大君は、お心の中で、

「今はと移ろひなむを、ただならじとて言ふべきにや、何かは、例ならぬ対面にもあらず、人にくく答へで、夜もふかさじ」
――いざ、薫のお心が中の君へ思い移るというときに、ただ黙っていては私にすまないと思って何かおっしゃるつもりなのでしょう。それなら何の、初めての対面では無し、
素っ気なさも程々にして、夜も更けないうちに中の君の方へお立たせしよう――

 とお思いになって、

「かばかりも出で給へるに、障子の中より御袖をとらへて、引きよせて、いみじくうるむれば、いとうたてもあるわざかな、何に聞き入れつらむ、と、くやしくむつかしけれど、こしらへて出だしてむ、とおぼして、他人と思ひわき給ふまじきさまに、かすめつつかたらひ給へる、心ばへなど、いとあはれなり」
――ほんの少しにじり出ますと、薫が障子の隙間から、つとお袖を捉えて引き寄せて、ひどく恨み事を言い続けます。大君はまあなんて厭なことをなさる、どうしておっしゃるとおりにしたのだろうと、口惜しくてなりませんが、ここは何とか宥めすかして、お帰ししなければとお考えになり、中の君をご自分同様に思ってくださるようにと、それとなくお話になる大君のお心遣いは、ほんとうにおいたわしい――

一方、

「宮は、教へきこえつるままに、一夜の戸口によりて、扇をならし給へば、弁参りきて導ききこゆ。前々も馴れにける道のしるべ、をかしとおぼしつつ入り給ひぬるをも、姫宮は知り給はで、こしらへいれむ、とおぼしたり」
――匂宮は薫がお教えなさったとおり、先夜薫が忍び入った戸口に寄って、扇をお鳴らしになりますと、弁の君が参ってご案内申し上げます。この弁の君が、今までも何度かここからあの中納言(薫)の道しるべをしたに違いないと、匂宮は可笑しく思いながらお入りになられたのも、大君はご存知なく、とにかく何とか薫をなだめて早くあちらへと思っていらっしゃる――

「をかしくもいとほしくも覚えて、内々に心も知らざりける、うらみおかれむも、罪さり所なき心地すべければ」
――(薫は)大君をおかしくもお気の毒でもあり、匂宮を手引きしたことについて内々何の事情も知らなかったこと、と、のちのち恨まれても弁解のしようもない気がして――

では11/27に。