永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(847)

2010年11月05日 | Weblog
2010.11/5  847

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(24)

「宵すこし過ぐるほどに、風の音荒らかにうち吹くに、はかなきさまなる蔀などは、ひしひしと紛るる音に、人のしのび給へるふるまひは、え聞きつけ給はじ、と思ひて、やをら導き入る」
――宵がすこし過ぎるころ、風の音が荒々しく吹いて来て、粗末な蔀(しとみ)などはひしひしと鳴っています。その音に紛れて人が忍び入る足音はきっと大君はお聞きつけにならないであろうと、弁の君は思ってやおら薫を寝所に導いてお入れになります――

「同じ所におほとのごもれるを、うしろめたしと思へど、常の事なれば、外々にともいかがきこえむ。御けはひをも、たどたどしからず見奉り知り給へらむと思ひけるに」
――中の君が同じところにお寝みになっておられるのを、気がかりには思いますが、今夜だけ別のお部屋で、ともどうして言えましょう。薫はどちらかをきっとお分かりであろうと思っておりましたが――

「うちまどろみ給はねば、ふと聞きつけ給ひて、やをら起き出で給ひぬ。いと疾くはひ隠れ給ひぬ。何心もなく寝入り給へるを、いといとほしく、いかにするわざぞ、と胸つぶれて、もろともに隠れなばや、と思へど」
――(大君は)まだ眠っておられませんでしたので、物音をお聞きつけになって、やおら起き上がられ、急いで隠れておしまいになりました。中の君の無心に寝入っておられるのを、非常に可哀そうで、どうなることかと胸がどきどきして、いっしょに隠れることができれば、とおもいますが――

「さもえ立ちかへらで、わななくわななく見給へば、火のほのかなるに、袿姿にて、いと馴れ顔に、几帳の帷子をひきあげて入りぬるを、いみじくいとほしく、いかに覚え給はむ、と思ひながら、あやしき壁の面に、屏風を立てたる後の、むつかしげなるに居給ひぬ」
――そうは戻る事もできず、わなわなと震えながら入口をご覧になりますと、ほのかな灯に袿姿のいかにも物馴れたご様子で、几帳の帷子(かたびら)を引き上げて、それらしい人影が忍び入ってきます。中の君はどんな気がなさるだろうと、お可哀そうにお思いになるものの、大君は粗末な壁際に屏風を立てた後の、狭苦しいところに座っておられます――

「あらましことにてだに、つらしと思ひ給へりつるを、まいて、いかにめづらかにおぼしうとまむ、と、いと心ぐるしきにも、すべてはかばかしき後見なくて落ちとまる身どもの悲しきを思ひ続け給ふに、今はとて山に登り給ひし夕べの御さまなど、ただ今の心地して、いみじく恋しく悲しくおぼえ給ふ」
――中の君は薫と結婚するという想定だけでも、ひどいことと言っておられたのに、これはましてどんな突飛な事かとお恨みになるにちがいない。すべてにおいて、しっかりした保護者無しに世に留まる二人の身の上の悲しい事を思い続けておられた父上が、今は最後とお山に登られた夕べのお姿などを、つい昨日のことのように思い出されて、無性に恋しく悲しくてならないのでした――

では、11/7に。