永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(846)

2010年11月03日 | Weblog
2010.11/3  846

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(23)

 さらに、

「ましてかくばかり、ことさらにも作り出でまほしげなる人の御ありさまに、志深くあり難げにきこえ給ふを、あながちにもて離れさせ給うて、おぼしおきつるやうに、行ひの本意をとげ給ふとも、さりとて雲霞をやは」
――ところが、こちらは殊更にもあつらえてでもと願う方が、並々ならぬ御執心で、親切にこの上ない風におっしゃいますものを。あなた様が無理にも拒絶なされて、かねてのご決心のとおり出家の御志をお遂げになりましょうとも、まさか雲や霞を召しあがってはおられませんでしょう――

 と、長々と語り続けますので、大君は憎く聞きづらいこととお思いになって、そのままうち伏してしまわれました。

「中の君も、あいなくいとほしき御けしきかな」
――中の君も、姉上に何とも具合の悪い、お気の毒なご様子ですこと――

 とお察しなさいますが、とにかくご一緒にいつものようにお寝みになりました。大君は、

「うしろめたく、いかにもてなさむ、と覚え給へど、ことさらめきてさし籠り、かくろへ給ふべき物のくまだになき御すまひなれば、なよよかにをかしき御衣、上に引き着せ奉り給ひて、まだけはひ暑き程なれば、すこしまろび退きて臥し給へり」
――とても不安で、弁などがどのように振る舞うだろうかとお思いなさいますが、ことさら引き籠もって隠れる所などどこにもない住いであれば…と思いつつ、中の君の上に、柔らかな美しいお召物をそっと掛けて差し上げ、まだ暑さの残る折から、寝がえりをうつと、少し離れてお寝みになりました――

 弁の君はすぐに大君のおっしゃる内容を薫に申し上げます。薫はお心の内で、

「いかなれば、いとかくしも世を思ひ離れ給ふらむ、聖だち給へりしあたりにて、常なきものに思ひ知り給へるにや、とおぼすに、いとどわが心通ひ覚ゆれば、さかしだち憎くも覚えず」
――どうしてまあ大君はこれ程までこの世を離れたいと思われるのであろう。聖僧めいた八の宮のお側にいらして、世の無常を思い知っておられるからかと思うと、自分の心と似通っていると感じて、大君を生意気で憎らしいとはお思いにはならないのでした――

「さらば、物越しなどにも、今はあるまじき事におぼしなるにこそはあなれ。今宵ばかり、御とのごもるらむあたりにも、しのびてたばかれ」
――では大君は、今は几帳ごしにお逢いすることも、とんでもないと思っておられるのですね。今夜こそは大君がお寝みの所にでもそっと案内してくれ――

 とおっしゃるので、気を利かせて人々を早く寝かせるなど、事情を察した老侍女たちは心の用意をするのでした。

では11/5に。