永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(850)

2010年11月11日 | Weblog
2010.11/11  850

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(27)

 弁の君が中の君はいったいどちらにおいででしょうか、と探している声がきこえてきて、中の君は恥ずかしく、思いがけない成り行きが不審でならないのでした。そういえば、昨日の大君の言葉を思い出して、姉君の辛いお気持をお察しなさるのでした。
(別の訳:昨日の大君のお話はこの事だったのかと、姉君のなさり方を恨んでいらっしゃる)

「明けにける光につきてぞ、壁の中のきりぎりす、はひ出で給へる。おぼすらむ事のいといとほしければ、かたみに物もいはれ給はず。ゆかしげなく、心憂くもあるかな、今より後も、心ゆるいすべくもあらぬ世にこそ、と思ひみだれ給へり」
――すっかり明けた光にほっとして、壁の中のきりぎりす(大君を譬えた)が這い出ていらっしゃいます。大君は中の君のご心中がたいそうお気の毒なので、お互いに物もおっしゃれない。大君は、中の君を薫にお逢わせしてしまい、なんと情けない事よ、これから後も、(差し出がましい老女房もいることなので)男については決して油断してはならないものと、お心は思い乱れるのでした――

 「弁はあなたに参りて、あさましかりける御心強さを聞きあらはして、いとあまり深く、人にくかりける事、と、いとほしく思ひほれ居たり」
――弁の君は、薫のお居間に参上して、大君の呆れるほどの気強さをすっかり聞いて、余りにも思慮深過ぎて、愛想のないなさりかたよ、薫の為にもお気の毒にと、気落ちして座り込んでしまいました――

 薫は、

「来し方のつらさは、なほ残りある心地して、よろづに思ひ慰めつるを、今宵なむ、まことにはづかしく、身も投げつべき心地する。棄て難くおとし置き奉り給へりけむ、心苦しさを思ひきこゆる方こそ、またひたぶるに、身をもえ思ひ棄てまじけれ」
――今までのお仕打ちの辛さは、それでもまだ望みがあるような気がして、あれこれと心を紛らわしてきたが、今夜という今夜はみっともなく恥ずかしく、川瀬に身を投げたい気持ちだ。(八の宮)が見棄て難くこの世に留め置かれた思いをお気の毒に思えばこそ、決して私の身勝手で世を棄てまい、と思ってきたのに――

「かけかけしき筋は、いづかたにも思ひきこえじ。憂きもつらきも、かたがたに忘られ給ふまじくなむ」
――懸想めいた思いの筋は、御姉妹のお二人には決して持つまい。だが、こんな悲しい、辛い事は忘れられそうにもない――

では11/13に。