永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(845)

2010年11月01日 | Weblog
2010.11/1  845

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(22)

 弁の君は、

「さのみこそは、さきざきも御けしきを見給ふれば、いとよくきこえさすれど、『さはえ思ひ改むまじ。兵部卿の宮の御うらみ深さまさるめれば、またそなたざまに、いとよくうしろみきこえむ』となむきこえ給ふ。それも思ふやうなる御事どもなり。二所ながらおはしまして、ことさらにいみじき御心つくしてかしづききこえさせ給はむに、えしもかく世にあり難き御事ども、さしつどひ給はざらまし」
――ただそのように、あなた様のお気持は前々から存じ上げておりますので、よくよく薫の君に申し上げるのですが、「思い直せるものではない。そんなことにでもなろうものなら、兵部卿の宮(匂宮)のお恨みもいよいよつのることになろう。中の君のことは匂宮にお預けするように、わたしも充分骨をおりましょう」と、こう申されております。
こちらのことも願ってもないご縁でございます。ご両親が揃っておいでになって、特別にお心を砕いてお世話申されましょうとも、これ程結構なご縁が同時に整われることなどありますまい――

 つづけて、

「かしこけれど、かくいとたづきなげなる御ありさまを見奉るに、いかになりはてさせ給はむと、うしろめたく悲しくのみ見奉るを、後の御心は知りがたけれど、うつくしくめでたき御宿世どもにこそおはしましけれ、となむ、かつがつ思ひきこゆる」
――畏れ多いとは存じますが、これほど頼りないご生活ぶりを拝しますと、この先どうなってゆかれるのかと、ただもう心配で胸を痛めております。将来の薫の君のお気持は測りかねますが、御二方とも、お幸せな結構な御運勢にお生まれになったようにお見受け申し上げます――

 と、またつづけて、

「故宮の御遺言たがへじと、おぼし召す方はことわりなれど、それは、さるべき人のおはせず、品ほどならぬ事やおはしまさむとおぼして、いましめきこえさせ給ふめりしにこそ。『この殿のさやうなる心ばへものし給はましかば、一所をうしろやすく見置き奉りて、いかにうれしからまし』と、折々のたまはせしものを。程々につけて、思ふ人に後れ給ひぬる人は、高きも下れるも、心のほかに、あるまじきさまにさすらふ類だにこそ多く侍るめれ。それ皆例の事なめれば、もどき言う人も侍らず」
――亡き宮さまの御遺言に背くまいとお思いになるのは、ごもっともでしょうが、それは、婿君として適当な方がおられず、身分の釣り合わぬことでもあおりだろうかとお思いになって、ご注意なさったのでしょう。(宮さまは)「薫がそういう御意志をお持ちならば、一人だけは安心してお任せできて、どんなにか嬉しかろうに」と、いつもおっしゃっておいでになりましたものを。どのような身分のお方でも、親に先立たれたお方は、御身分の上下を問わずそれぞれに、そんでもない生活に沈む人々さえ多いと申します。それとて、世のならいでございますから、非難する人はおりません――

では11/3に。