永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(856)

2010年11月23日 | Weblog
2010.11/23  856

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(33)

 さて、薫は匂宮を御馬にて、暗闇にまぎれて姫君たちの邸にご案内なさって、弁の君をお呼び出しになって、

「ここもとにただ一言きこえさすべき言なむ侍るを、おぼし放つさま見奉りてしに、いとはづかしけれど、ひたやごもりにては、えやむまじきを、今しばしふかしてを、ありしさまには導き給ひてむや」
――(私としては)大君にただ一言申し上げたいことがございますが、私を嫌っていらっしゃるように拝しましたので、たいそう極まりが悪く恥ずかしいことですが、引っ込んでばかりもいられませんでね。もう少し夜が更けてから、先夜のように大君のお部屋に案内してくれませんか――

 などと、心を隠すこともなく相談なさいますと、弁の君は、「大君でも中の君でも、もうどちらでも同じこと」と思って、引きさがって参りました。

「さなむ、ときこゆれば、さればよ、思ひ移りにけり、とうれしくて心おちゐて、かの入り給ふべき道にはあらぬ廂の障子を、いとよくさして、対面し給へり」
――(弁の君が)薫のお言葉を、こうこうと大君に申し上げますと、大君は思い通りに中の君にお心が移られたのだと、うれしくなって心も落ち着いて、中の君のお部屋への通路では無い方の廂の間の障子を厳重に錠を下ろして、薫とご対面になります――

 薫は、

「一言きこえさすべきが、また人聞くばかりののしらむは、あやなきを、いささか掛けさせ給へ。いといぶせし」
――ひと言申し上げたいのですが、人に聞かれるほどの大声を出すのも間が悪うございます。もう少しお開けください。これではあまりに鬱陶しうございます――

 と申し上げますが、大君は、

「いとよく聞こえぬべし」
――いいえ、このままで良くお聞きになれる筈です――

 とおっしゃって、お開けになりません。


では11/25に。