永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(277)

2009年01月16日 | Weblog
09.1/16   277回

【常夏(とこなつ)】の巻】  その(3)

 源氏は、玉鬘に、
「(……)方々ものすめれど、さすがに人のすきごと言ひ寄らむにつきなしかし。かくてものし給ふは、いかでさやうならむ人の気色の、深さ浅さをも見むなど、さうざうしきままに願ひ思ひしを、本意なむかなふ心地しける」
――(こちらに出てきてご覧なさい。あの人たちも飛んで来たそうにしていますよ。あなたに気がない筈がない。)秋好中宮や明石の姫君がおられますが、さすがにそれは、人が言い寄るには似つかわしくありません。あなたがこうして居られるのは、何とかしてそいう人の志の深さ浅さを見たいものと、わたしが退屈まぎれに望んだのですが、その本望の叶う気がしましたよ――

 と、ささやくようにおっしゃいます。

 遠く、お庭には、先ほどの公達たちが、見事な色の撫子が咲き乱れるそばに、佇んでいらっしゃる。その中でも一段と夕霧の君が雅やかで目立っておられます。源氏は、

「中将を厭い給ふこそ大臣は本意なけれ。交りものなく、きらきらしかめる中に、王だつ筋にて、かたくななりとや」
――わが子中将夕霧を嫌うとは、内大臣も心外だ。藤原氏だけのきらびやかな中に夕霧が王族の血統なので、混ざるのが、いけないと言うのか――

「ただ、幼きどちの結び置きけむ心も解けず、年月隔て給ふ心むけのつらきなり。まだ下なり、世の聞き耳軽しと思はれば、知らず顔にてここに任せ給へらむに、うしろめたうはありなましや」
――ただ、幼い者同志が結んだ約束も果たさせず、長い年月を打ち解けないままにしてお置きになるお仕打ちが情けないと思うのです。まだ、官位が低い、婿には外聞が悪いと思われるなら、私にお任せくだされば心配ないようにしますのに――

 などと、溜息まじりにおっしゃいます。

 玉鬘は、さては、源氏と御父の内大臣とは、こうした差し障りのある間柄でいらしたのかと、今お知りになって、こういうことでは、実の父君にお遭いできるのは何時のことかと、胸の塞がる思いになるのでした。

◆つきなしかし=付き無しかし=似つかわしくない、ふさわしくない、に強めの「かし」をつけて、「全く似つかわしくありませんよ」
 玉鬘は秋好中宮や明石の姫君には劣る存在であること。色好みの対象であること が見える。

*1/17~1/24までお休みします。
ではまた。