09.1/6 267回
【胡蝶(こてふ)】の巻】 その(15)
源氏は玉鬘に恋心を示されて後は、遠まわしに匂わせなさる事はなくて、うるさく言い寄られることが多くなりましたので、玉鬘はいよいよ窮屈なやり場もない気がなさって、ついにご病気にさえなられたのでした。玉鬘の御心は、
「かくて事の心知る人はすくなうて、疎きも親しきも、無下の親さまに思ひ聞こえたるを、かうやうの気色の洩りいでば、いみじう人笑はれに、憂き名にもあるべきかな」
――こうして真の事情を知る人は少なく、他人も親身の人も、源氏をこの上ない結構な父親と信じていますのに、こうした関係が知れましたなら、たいそうな物笑いになり、必ずや悪評となるでしょう――
「父大臣などの尋ね知り給ふにても、まめまめしき御心ばへにもあらざらむものから、ましていとあはつけう、待ちきき思さむこと、と、萬に安げなう思しみだる」
――父の内大臣などが尋ね出してくださるとしても、もともと芯からのご愛情がおありとも思えませんので、こんなことが知られれば、どんなにお蔑みになることでしょうと、
案じられ、不安でいっぱいになられるのでした――
「宮、大将などは、殿の御気色、もて離れぬさまにつたへ聞き給うて、いとねんごろに聞こえ給ふ。(……)」
――兵部卿の宮と髭黒の大将は、源氏のご意向が、自分たちを離れていないらしいことを聞き伝えて、至極念を入れて玉鬘に言い寄られます。(柏木の中将も、源氏が前に柏木などを軽蔑するのはよくない、と玉鬘にお洩らしなさったということを、小耳にはさんで、実は姉弟であることも知らずに)――
「ただひとへにうれしくて、おりたちうらみ聞こえまどひありくめり」
――柏木は、ただもう喜んで熱心に文を贈ったり、姫君の御住いのあたりを、さまよい歩いたりしているようです。――
【胡蝶(こてふ)】の巻】おわり。
ではまた。
【胡蝶(こてふ)】の巻】 その(15)
源氏は玉鬘に恋心を示されて後は、遠まわしに匂わせなさる事はなくて、うるさく言い寄られることが多くなりましたので、玉鬘はいよいよ窮屈なやり場もない気がなさって、ついにご病気にさえなられたのでした。玉鬘の御心は、
「かくて事の心知る人はすくなうて、疎きも親しきも、無下の親さまに思ひ聞こえたるを、かうやうの気色の洩りいでば、いみじう人笑はれに、憂き名にもあるべきかな」
――こうして真の事情を知る人は少なく、他人も親身の人も、源氏をこの上ない結構な父親と信じていますのに、こうした関係が知れましたなら、たいそうな物笑いになり、必ずや悪評となるでしょう――
「父大臣などの尋ね知り給ふにても、まめまめしき御心ばへにもあらざらむものから、ましていとあはつけう、待ちきき思さむこと、と、萬に安げなう思しみだる」
――父の内大臣などが尋ね出してくださるとしても、もともと芯からのご愛情がおありとも思えませんので、こんなことが知られれば、どんなにお蔑みになることでしょうと、
案じられ、不安でいっぱいになられるのでした――
「宮、大将などは、殿の御気色、もて離れぬさまにつたへ聞き給うて、いとねんごろに聞こえ給ふ。(……)」
――兵部卿の宮と髭黒の大将は、源氏のご意向が、自分たちを離れていないらしいことを聞き伝えて、至極念を入れて玉鬘に言い寄られます。(柏木の中将も、源氏が前に柏木などを軽蔑するのはよくない、と玉鬘にお洩らしなさったということを、小耳にはさんで、実は姉弟であることも知らずに)――
「ただひとへにうれしくて、おりたちうらみ聞こえまどひありくめり」
――柏木は、ただもう喜んで熱心に文を贈ったり、姫君の御住いのあたりを、さまよい歩いたりしているようです。――
【胡蝶(こてふ)】の巻】おわり。
ではまた。