永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(272)

2009年01月11日 | Weblog
09.1/11   272回

【蛍(ほたる)】の巻】  その(5)

 紫の上は、明石の姫君の御為にも、物語を捨てがたくお思いで、いろいろと選んでは、読んで差し上げますのを、源氏はご覧になって、

「姫君の御前にて、この世慣れたる物語など、な読み聞かせ給ひそ。みそか心つきたるものの女などは、をかしとにはあらねど、かかること世にはありけり、と見なれ給はむぞゆゆしきや」
――明石の姫君の御前では、このような色めいた話などお聞かせなさいますな。秘めた恋にあこがれる物語の中の娘などを、面白いとは思わぬまでも、こんなことが世の中にはあるものだと、見慣れてしまわれてはたいへんですからね。――

 とおっしゃる。

「こよなし、と対の御方聞き給はば、心置き給ひつべくなむ」
――よくもこのようなことを、と玉鬘がお聞きになったら、ご自分の方へいらっしゃった時の源氏のご様子とは大変な違いです事、と、恨めしくお思いでしょうに。――

 源氏と紫の上は、ただただこの幼い姫君が、非難をお受けにならないようにお育てせねばと、思われておいでです。

「継母の腹ぎたなき昔物語も多かるを、心見えに心づきなしと思せば、いみじく選りつつなむ、書き整へさせ、絵などにも書かせ給ひける」
――まま母の意地悪さを書いた昔物語も多いけれど、継母の心の奥がみなこうしたものだなどと、お思いになってはいけないと、源氏はひどく気をつけてお選びになり、幼き姫君に清書をおさせになったり、絵などもお描かせになります。――

 源氏は、夕霧を義母の紫の上からは引き離して、対面させておられませんが、明石の姫君とは、ご兄妹としてご一緒に遊ばれることを御赦しになっておりますので、姫君のお居間にては、雛遊びなどもなさいます。ただ、

「台盤所の女房の中はゆるし給はず。あまたおはせぬ御なからひにて、いとやむごとなく、かしづき聞こえ給へり」
――台盤所の女房達の居るところへはお許しになりません。源氏には多くないお子様たちですので、注意深く大切にお育てになっていらっしゃるのです――

◆みそか心=密か心=ひそかに恋する心

◆台盤所(だいばんどころ)=台盤をおくところ。宮中では清涼殿の一室で、女房の詰め所。六条院のような貴族の邸では、食物を調理する台所。(女房達が大勢いるので、間違いがおこらぬようにと夕霧を近づけない)

◆写真:紫の上に意見している源氏  風俗博物館

ではまた。