永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(婚礼衣装)

2008年05月15日 | Weblog
光源氏と紫上の結婚

 幼い紫上を半ば略奪するように源氏が自邸に引き取ることに始まる二人の関係は、結婚の事実についても、三日夜餅(みかよもち)の儀式は済ませたものの、内輪にしか知らされない内密の結婚であった。しかも普通、裳着(もぎ)は結婚の前に行うものであるが、紫上の場合はその逆で、源氏との結婚後に行われ、公にはされなかった。

◆写真は平安時代の婚礼衣装

 濃小袖・濃長袴・単(ひとえ)・袿(うちき)八領・小袿(こうちき)を着ます。
紫の上は、このような衣裳も着られなかったのです。

参考:風俗博物館より

源氏物語を読んできて(50)

2008年05月15日 | Weblog
5/15  

【葵】の巻 (13)
 
 源氏が桐壺院に参上します。つづいて中宮(藤壺)のお部屋へご挨拶を済ませて二条院に退出されたのは夜が更けてからでした。
 
 二条院では、上位の女房たちが皆里から参上して、美しく衣裳や化粧などほどこしてにぎやかな様子を見るに付けても、源氏は、故葵の上の所の女房たちの打ち萎れていた有様を哀れに思い出されます。
 
 紫の上の様子に「久しかりつる程に、いとこよなうこそ大人び給ひにけれ」
――久しくお会いしないうちに、大層大人らしくおなりですね――
 と、御几帳を引上げてごらんになると、横を向いて恥ずかしがっていらっしゃる御様子には、なんの不満な点もありません。
 横顔など
「ただかの心つくし聞ゆる人の御様に違う所なくも成り行くかな、と見給ふに、いとうれし」
――ただただ、あのお慕い申すお方(藤壺)のご様子に違うところなく、そっくりになっていくことよ、とご覧になるほどに大層よろこばれ――
 
 源氏には、すっかり申し分のないほどに女らしくなられた紫の上に、それとなく気を引くような事を話されますが、一向にお気づきにならないようです。

 つれづれに碁をうち、偏つぎなどして遊びながら、紫の上の気立てと言い、素直さといい、申し分のないご様子に、
「しのび難くなりて、心苦しけれど、いかがありけむ、……女君はさらに起き給はぬ朝あり」
――源氏はがまんできにくくなって、紫の上には気の毒だが…… 女君はお起きにならぬ朝がありました。――
 
 紫の上は「かかる御心おはすらむとは、かけても思し寄らざりしかば、などてかう心憂かりける御心を、うらなくたのもしきものに思ひ聞えけむ、と、あさましう思さる」
――こんな下心があろうとは思いも寄らないことでしたので、どうしてこんな厭なお考えのあった人を、頼もしい方とお思いしていたのだろうと、とんでもないことと思われます――
 
 源氏が「なやましげにし給ふらむは、いかなる御心地ぞ。……」
――ご気分がお悪いそうですが、どんな具合です。今日は碁も打たないでものたりないこと――
と、のぞき込み、なだめすかしてご機嫌をとりますが、
「いよいよ御衣引きかづきて臥し給へり」
――いよいよ御衣を引きかぶっておしまいになります――
 
 夜具を引き上げると、汗と涙で額髪も濡れておいでです。返しのうたもなく、源氏は「ではもう仕方がない、これからはもう二度とお目にかかりません」と捨てぜりふに、それにしても、初心なご様子よと、可愛らしく思われるのでした。

◆ 女君(紫の上)が、きまり悪くてお起きにならぬ朝、という表現で、事実上の結婚をあらわしています。正式な婚儀(つまり正妻ではありません)の形をとっていないことは、紫の上の今後に陰を落としていきます。

ではまた。

源氏物語を読んできて(遊びー偏つぎ)

2008年05月15日 | Weblog
偏(へん)つぎ

 偏つぎとは漢字の偏と旁(つくり)を使っての文字遊戯で、主に女性や子供が漢字の知識を競うために行った遊びである。その方法は未明であるが、旁に偏を付けて文字を完成させる、詩文の漢字の偏を隠し、旁だけを見せてその偏を当てさせる、また逆に偏だけ見せてその字を当てさせる、一つの偏を取り上げてその偏の付く漢字をいくつ書けるか競う、などと思われる。

◆囲碁、偏つぎは、風俗博物館より