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【葵】の巻 (15)
年が改まって
源氏は、元日に桐壺院、内裏に参上して後、左大臣宅へ渡られます。左大臣も大宮も新年でありながら涙にくれていらっしゃるのに、まして源氏がお出でになられたので、またも思い出されてたまらなく悲しまれます。
しばらくお会いにならなかった源氏を、お二人は
「御年の加はるけにや、ものものしきけさへ添ひ給ひて、ありしよりけに、清らに見え給ふ。」
――源氏はお年が加わって、重々しい様子まで添われて、以前よりずっとお綺麗にお見えになる――(清ら=第一級の賛辞)
源氏は若宮(夕霧)をごらんになると、随分大きくなって
「まみ、口つき、ただ東宮の御同じさまなれば、人もこそ見奉りとがむれ、と見給ふ」
――目元や口つきが東宮(源氏と藤壺の御子)と瓜二つなので、もしかして人が不審に思いはすまいかと、ご心配になります――
大宮は、今までのしきたりどおり、新年の御装束を源氏にご用意なさっていてお待ちしていましたので、源氏は晴れ着に着替えをなさって、それにしても葵の上の御装束が無いのを物足りないとお思いになります。
御衣裳の御下襲は、色も織ざまも世間普通のものではなく、全く特別なものでした。
大宮のうた「新しき年ともいはずふるものは旧(ふ)りぬる人のなみだなりけり」
――新年だというにもかかわらず、昔のままに降るものは老人の愚痴の涙の雨でした――
作者のことば
これほどのお嘆きは、本当に並大抵のことではありません。
◆ 「葵」終わり。