落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

おんな道

2005年10月26日 | movie
『恋愛は狂気の沙汰だ』

ぐりは韓流ブームより前からたま〜に韓国映画をみてましたが、コレはちょっとその昔を思い出させるような、ある種トラディショナルな印象を受ける映画でした。
カメラワークや照明がシンプルでありつつ上品で、画面構成がとても綺麗にまとまっている。編集がすごく丁寧。台詞もよく練られている。つまりたいへん完成度が高い映画です。しかし内容はノスタルジック。カラオケのシーンがいっぱいあって、演歌ばっかり流れるからかもしれない。
ノスタルジックといっても平和な子ども時代をイメージさせるような種類のノスタルジーではない。男運に恵まれない女性の転落と成長を淡々と描いた静かな映画、というのがファッショナブルなエンターテインメントがメインストリームになっている今の韓国映画とは逆行する傾向を感じさせるのだ。
ティーチインで監督も語っているように、全編ヒロイン全美善(チョン・ミソン)でずっぱり。出てないシーンなんか数えるほどしかない。んでその全美善がまたまっっっったく笑わない。たまぁ〜に頼りなさそうにうっすら唇を緩めるだけ。最初から最後まで全身から不幸オーラ噴出しまくってます。もうこの時点でこの映画‘韓流’じゃないでしょう。よしよし(?)。
ぐりの両親もいってたけど、昔の韓国の男の人は全然働かないでお酒ばっかり飲んで、家業も家事も子育てもぜんぶ奥さんにやらせてたそーです。たぶん今は違うと思うけど、たかが戦後半世紀余りでいきなり天地がひっくり返るほどに男女観が変化するとも考えにくい。だからこの映画に出てくるよーなろくでもない男や、苦労ばかりしている女、そしてそれを互いに大して不思議にも思わない男女関係は、実は韓国では今でもある面においては現実なのだろうと思う(質疑応答の雰囲気ではなんとなくそんな感じだったし)。
それにしてもこれほどシニカルな恋愛映画も珍しいかもしれない。決して明るい話ではないけど、おもしろかったです。ハイ。

おんな道

2005年10月26日 | movie
『非婚という名の家』

台湾でサウナを経営する妙齢のゲイたちの日常を描いたドキュメンタリー。
ビデオ撮影だしたぶんもともとはTV番組用に撮影されたものだと思う。テロップ(誤字誤植多数)での情報量が多くて読みきれなかったり、録音状態が極端に悪かったり画質がひどく劣化してたり、残念ながら映像作品としての完成度にはそれなりの問題を抱えてはいる。
それでもこれは間違いなく傑作です。単にぐりが不勉強なんだろうけど、これほどまでに「市井にごくふつうに生きている同性愛者」をストレートにとらえた映像を未だかつて見たことがなかったです。それはとりもなおさず撮影者(おそらく監督)と被取材者との強い信頼関係の賜物なのだろう。
この作品に登場するゲイたちは皆決して若くはないし、美しくもないし、とくに教養があったり才能や個性にめぐまれている訳でもない。ほんとにほんとにごくふつうの人たちだ。彼ら(彼女ら)が「ふつう」でないのは、ただその性指向だけ。
彼らは日本よりもさらに保守的な台湾で国からさえ差別され理不尽に虐げられていても、決して絶望したり自分を騙して楽をしようとはしない。それまでの人生でそんな現実逃避が何の意味もなさないことを既に学んでいるからだろうか。一生をかけて心から愛せる人と出会いたい、そしてパートナーには死ぬまで全身全霊をもって自分のすべてを捧げつくしたい、という愛情の深さはなるほどふつうではないかもしれない。そういう意味で彼女たちは確かに男よりも女よりも勇敢だ。その姿は誰がなんといおうとどんな宝石や芸術品よりも美しい。
当り前のことだが世の中は彼女たちに厳しい。さまざまな困難や苦痛がいくつもいくつも絶えることなく彼女たちを待ち受けている。それなのに、さもなんでもなさそうにちょっと困ったような穏やかなほほえみを浮かべて、そうした艱難辛苦を静かに語る彼女たち。もしかしたら彼女たちの強さはそんな環境の厳しさによるものなのかもしれない。
理屈はまったく抜きにしても、この作品は涙なしでは観られないです。すいません、ぐりめちゃ号泣してました。