龍彦助けてくれ

2009年11月11日 | 健康・病気
「SONGS」(NHK総合 23:00 ~ 23:30)を観てしまった。
井上陽水が今夜から4週連続で「SONGS」に登場する。
さすが陽水ですね。
そういう立ち位置の陽水を、おれはあまり好きではない。
おれとすれば、あまり恵まれた状態にいない陽水に愛着を持つ。
でも現在は、押しも押されもしない日本の“歌謡界”の大物だもんな。
ちょっとおれから離れてしまった感じです。

番組で流れた歌は、
「招待状のないショー」「限りない欲望」「氷の世界」「傘がない」だった。
もう、たまりません。私の20・21歳のときの歌です。
あ…、タバコが欲しい。タバコをくれ~。
陽水の歌を聴いていて、おれはつまんない昔を思い出してしまった。

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 龍彦は、ボクシングをやめてから、なぜかおれにギターを教えてくれとせが
んだ。おれは、プロになるんだ。世界チャンピオンになってやる。そういって、
大阪から上京してきて、おれと一緒の試薬会社に入り、ボクシングジムにも入
った。
 おれは、大学に行って教師になるという希望があり、予備校に通った。その
試薬会社は4時半に仕事が終わり、他の社員も大学のⅡ部にいたり、という人が
多かった。場所は本郷三丁目にあり、なにかと都合のいい所だった。
 龍彦は、ボクシングをやめたので夜時間があった。暇にまかせてギターを弾
いたので上達が早かった。安いフォークギターを龍彦は買っていた。
 おれは、予備校を夏休みが終わった9月にはやめていた。もともと勉強の好き
ではなかったおれに、予備校の教室で坐り続けるということが苦痛だった。
 駒込の同じアパートにいた1つ年上の人と、あるときからたまに飲むようにな
っていた。そのIさんは、美大を落ちて、山谷で日雇い仕事をしながら絵を描い
ていた。
 そのIさんから、「大学なんてくだらない、行くとバカになる」なんていわれ
て、予備校に嫌気のさしていたおれは、Iさんと毎晩飲むようになっていた。
 金はない。おれたちは安い酒を買ってきてアパートで飲んでいた。そこに龍彦
も参加するようになった。
 そのうち龍彦は会社をやめた。やめて大阪に行った。おれは寂しかった。
 半年ほどすると、龍彦がギターをぶらさげて東京にやってきた。そして、アパ
ートを見つけ定住した。仕事も探し、おれたちはまた毎晩飲む暮らしを始めた。
 しかし、また半年もすると龍彦は関西に行ってしまう。
 22歳の年末のときだったか、おれは龍彦の勤めていた神戸の仕事場に遊びに行
った。龍彦はそこで新聞配達をしていた。そこに彼の部屋もあった。そこでおれ
たちは酒を飲んだ。
「おれの故郷に行こう」と龍彦がいう。龍彦は新聞配達所をその日で辞め、おれ
たちは山口県の岩国の錦帯橋のかかる錦川の上流にある、龍彦の生家に行った。
 2日泊まったのかなそのあとどうしたのか覚えていない。
 おれと一緒に龍彦は東京に来たのかな。今となってはまったく覚えていない。
 関西での龍彦の暮らしは知らない。でもギターは弾いていてかなりテクニック
は上達していた。もともと龍彦は歌がうまかった。以前は演歌が好きで、クール
ファイブの前川清の歌をよくうたっていた。
 龍彦は、よく公園でうたっていた。部屋にいないなと思うと、近くの公園でギ
ターを弾いていた。あいつの歌はうまい。おれはプロになれると思った。
 龍彦の一番好きな歌は、陽水の「紙飛行機」だった。

♪ 白い紙飛行機 広い空をゆらりゆらり
  どこに行くんだろう どこに落ちるんだろう
  今日は青空が隠れている

 今日、陽水の歌を聴いていて、龍彦のことを思って涙がとまらなかった。
 龍彦はその後、陶芸の道を目指し萩に行った。Iさんのお兄さんが福岡で陶芸
をやっていた。九想窯です。そこに龍彦は行き、陶芸に目覚めた。
 萩にいったが2年ほどで萩を抜け出した。そこの同じ弟子だった女性と出奔し
た。何ヶ月か2人で旅をし、東京のおれの住むアパートにやってきた。
 龍彦はおれに、「こいつと結婚する」といった。
 おれは、「やめろ」といった。
「陶芸でメシが食えるようになったら結婚すればいい」
 なんて生意気なことをいってしまった。
 おれのいうことをきいてくれて龍彦はそのあと、備前に行った。
 9月に行ったのだが、すぐ頭が痛いといって入院した。脳髄炎という病気だった。
 おれは、備前に行った。あいつの仕事するロクロの前に坐った。悲しかったな。
 これがボクシングのせいかどうかおれは知らない。
 そして12月に他界した。
 陽水は、おれと龍彦をつなぐ人間です。
 それにしても、
「龍彦、今のおれはどう生きていけばいいんだ」

コメント
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