幸せな男

2008年09月20日 | 健康・病気
 あと1時間ほどで36時間勤務が終わるという夜の7時ごろ、WEST棟のフロント
で私は立哨していた。
 フロントの女性は7時過ぎに帰る。タワーマンションのフロント業務は19時
までだ。それからのフロント業務の一部を管理人と警備員で引き継ぐ。
 管理人は8時半で帰る。そのあとは夜勤の警備員がやる。
 ついでなので書きますが、フロント業務は、ゲスト駐車場の予約、宅急便受
付、クリーニング受付、共用施設(ゴルフレンジ・パーティールーム・キッズ
ルーム・会議室・フィットネスルーム)貸し出し、その他です。
 
 私が立っているところに管理人のF がきた。
「あと1時間で36時間勤務が終わります。明日は休みなんですよ。22日が孫の
誕生日でね、明日、孫のところに行くんです」
 私は、もうすぐ仕事が終わるという開放感からそんなことをいった。これま
でFとはあまり私的なことは話してない。いつもかれが自分のことを話すという
関係だった。たいがいがかれの自慢話だった。
 そんな糸口から互いのこれまでのことが話題になった。私はいろいろ会社を
かわったが多くは工場関係の仕事だったなんて。
 かれは私より2歳年下で高校を出てから薬品会社に8年ほどいてから、先物取
引の会社に、ここの管理人になるまでいたという。営業をやっていて、最後の
ころは年収が1500万ぐらいあったとか。
「1500万か! おれなんてよかったときで600万、今は300万にもならない」
「今じゃ、おれなんて管理人になって200万ほどだよ。でもいいんだ。そこそこ
貯金はあるからこれからはのんびり好きなことやって暮らしていく」
 かれの貯金は6000万円ほどはあるという。3年前、その先物取引の会社は、
金の残るかたちで経営者が倒産させたらしい。退職金もかなりもらった。
 うちなんて500万ぐらいかな。女房との老後を考えると暗い気持ちになる。
「そんなすごい年収もらっていたんだったら、もっと貯金があってもよかった
んじゃない」
「そうだよね。それが、好きなものは買ったし、毎日飲んでいたし、これにかな
り使っちゃったな」
と、右手の小指を出した。
 それからしばらく、その小指の話になった。

 54と56歳の男が、タワーマンションのカウンターで人生の棚卸しをしている。
 F は会社の給料のほかに、交際費として月に30~40万はもらっていたという。
大半は女に貢いでなくなってしまった。
 私はというと、暮らしにカツカツの給料で双子の息子を大学にやるために、
月2~3万円の小遣いで細々と男の人生を歩いてきた。家は持てなかった。女房
のほかに女はいない。ちょっぴりかれの生き方がうらやましい。
「でも、見栄をはっていわせてもらえば、おれのこれまでの生き方もまんざら
悪くはないと思っているよ」
とF に私はいった。
 少し、負け惜しみ臭いな。

コメント
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