マックス・プランク宇宙物理研究所・所長の小松英一郎さんとの共著「宇宙のはじまり、そして終わり」(日経プレミア新書)を上梓いたしましたので、あらためて紹介いたします。
始まりはナショジオウェブでの連載「研究室に行ってみた」でした。
2014年のはじまりにミュンヘンを訪ね、2時間半ほどインタビューさせていただいて、その後のミーティングなんかにも参加させていただき、えらく刺激を受けました。
観測的宇宙論という言葉がありますが、今、宇宙論の黄金時代という言われ方をするのは、20世紀に積み重ねられてきた様々な理論的な予想に、工夫をこらした観測が追いついて、ばさっばさっと可能な理論を限定していく現場だからなんですね。
小松さんは、20世紀の冒頭に活躍したWMAP探査機のコアメンバーの一人として、まさに宇宙論の中心にいた人です。
WMAPの研究は、これまで3回、論文被引用の年間ナンバーワンに輝いていて(すべての科学論文の中でですよ)、そのうち2回が、小松さんが筆頭著者です。その凄み、わかりますか?
宇宙論のエース、とぼくは思うのですが、キャリア形成が完全に海外だったこと。そして、日本がたまたま手薄だった宇宙マイクロ波背景放射を専門としたことで、日本語の紹介は、これまでやはり手薄だったのです。
宇宙マイクロ波背景放射って、日本では最近、結構話題になってきました。それは、20年代に打ち上げられる予定のLITEBirdのせいもあると思います。やばり、国内に研究チーム、研究伝統がないと、報道されにくいんですよね。
本書は、日本では間接的にしか伝えられてこなかった、「空白の10年間」(とぼくは呼びます)の研究にもきちんと言及をしつつ、宇宙論の過去・現在・未来、そして、もちろん、宇宙の始まりと終わりに思いをいたします。
構成は、
1)宇宙のはじまり。インフレーションのこと。
80年代の理論ですか、まだ検証されていません。
小松さんのWMAPやその後のプランクが追い詰めてかなりイイセンいってます。また、南極点のBICEP2が「インフレーションを証明!」みたいな話題か去年出ましたけど、それは空振りでした。
今、やっとインフレーション理論に、本格的な検証が可能なところまでぼくたちはやってきたということに感慨をおぼえます。
2)宇宙背景放射が切り開いた21世紀宇宙論
これは小松さんが博士・ポスドク・テキサス大とキャリアアップしながらかかわったWMAPの成果をちょっとこだわって紹介しています。
前述したように、これは、日本ではつっこんだ紹介があまりなくて、単にその結果、宇宙の年齢が138億年だとか、宇宙の現在の組成が暗黒エネルギー7割だとか、そういうキャッチーなところだけをつまみ食いしてきた感があります。
たとえば、この前のノーベル賞の「ニュートリノ振動」についての解説は新聞から雑誌、書籍までいろいろなところで出ていますが、WMAPはいくつものノーベル賞をアシストしたレジェンドなのに、あまり語られませんでした。
ここで、かなり突っ込んで書いています。
3)暗黒エネルギーについて。
現代宇宙論最大の謎と言われる暗黒エネルギーについて、小松さんが迫ります。
今の宇宙では、「りんごを投げても落ちてこない。それどころか加速して遠ざかっしてしまう」のが常識だ、と暗黒エネルギーは語ります。
宇宙の歴史の中で、最初は放射(光)優勢、そして、つぎに物質優勢の時代があり、今は、暗黒エネルギーが卓越しています。
そんなのあり? と思いつつ、宇宙物理学者は受け入れています。
小松さんは、そこにメスを入れます。
テキサス州のホビーエバリー望遠鏡にて、「ホビーエバリー望遠鏡・暗黒エネルギー実験」というのを開始して、暗黒エネルギーの性質の解明に挑みます。
場合によっては、アインシュタインの一般相対性理論(重力理論)を書き換える必要に迫られるような仕事です。
我々は「アインシュタイン超え」できるんでしょうか。
そして、暗黒エネルギーの性質は、我々の宇宙の行末を決定します。
小松さんの研究者としてのストーリーは、宇宙の始まり(インフレーション)から、今と終わり(暗黒エネルギー)までを貫いているんですね。
そして、それらをつなげるのが、宇宙マイクロ波背景放射です。
さいわい出だしは好調で、書店に並んだ日に重版が決まりました。
日経プレミア新書というシリーズなので、ひょっとするとビジネス書の棚にあるかもしれません。ぜひお手にとってごらんくださいませ。
相当な自信作ですよ。
- 日経プレミア新書: 304ページ
- 出版社: 日本経済新聞出版社 (2015/12/9)
- ISBN-10: 4532262836
- ISBN-13: 978-4532262839