川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

ティラノサウルスの名前、危機一髪。危険な国際動物命名規約

2005-05-15 04:59:00 | 川のこと、水のこと、生き物のこと
IMG_2944 ティラノサウルスの名前が危ないって話、聞いたことありますか。
 ほら、以前、カミナリ竜のブロントサウルスが、アパトサウルスになってしまったの同じ理由。国際動物命名規約にのっとって、先に記載され名付けられていた動物と同じであったとあとで分かったなら、そちらが優先され、いかに人口に膾炙した名前であろうと消えてしまう、と。
 
 ティラノサウルスという恐竜は、アメリカ自然史博物館のオズボーンが1905年に記載・命名しました。標本は希代の化石ハンターバーナム・ブラウンが発見したもの。
 
 しかし、その前に1892年にコープがティラノサウルスらしいごくごく限られた骨の記載をすでにすませているんです。マノスポンディルス・ギガス。
 こいつが問題なわけです。

 多くの研究者が、マノスポンディルスはティラノサウルス・レックスであろうと思っていたのですが、骨も断片的だし確定的なことは言えないこともあって、名前の先取権をゴリゴリに適用することもないだろうと考えてきました。
 
 ところが! コープが記載した骨があったとされる同じ場所から、すでに発掘されている「断片」以外の骨が見つかってしまったんですね。つい最近のことです。
 とすると、いずれ、マノスポンディルスがティラノサウルスであったと、完璧に証明されることになってしまい、ティラノサウルス・レックスという名前は、消されてしまう……と。
 
 なんかイヤーな感じがしませんか?
 
 マノスポンディルスって原義は知らないけれど、「暴君竜」に勝てるはずもないですよね。こいつは絶対に改名しないでほしい。でも、命名規約は厳格で、条件を満たしてしまえば、待ったなしで変えられてしまう……。だって、ブロントサウルスをアパトサウルスに変えちゃった奴ら(というか規約)ですぜ。
 
 とはいえ、安心情報も聞いておったのです。
 
 いわく、
 2000年に行われた命名規約の改訂で、なんらかの措置がとられ、ティラノサウルスの名前は変わらずにすむようになった……。
 とはいえ、確証を得られないまま、日々が過ぎ、このたび、とうとう国際動物命名規約の全文を取り寄せちゃいました。実はウェブで英語版をみたのだけれど、はっきりいってめちゃくちゃ長いわわかりにくいわでどうにもならない。
 邦訳があるのを知って、それならばなんとなかなるかも、取り寄せた次第。
 
 ところがね、日本語もとんでもなくわかりにくい。
 条文なんて解読不能なところがたくさんある。
 でも、意外とあっけなく謎は解けました。
 前文にこんな下りを発見したのです。
 
 有効な学名として過去50年間のうちの10年間を下回らない期間中に、少なくとも10名の著者により25個の出版物中で使用されている学名を、1899年よりも後に有効名として使われていない古参異名や古参同名によって置き換えてはならない(これには、審議会の裁定を必要としない)。
 
 これは完全にティラノサウルス用に作られたかのようなコメントじゃないですか。
 19世紀の記載は雑なのが多いからこうやってガードしてやろうという考えは合理的なのですね。たぶん。
 
 とにかくこれで一安心。
 全国のティラノサウルス・ファンのみなさま、枕を高くして眠って結構です。
 
追記
マノスポンディルス=まばらな脊椎
恐竜好きの方からのご指摘、でした。

さらに追記。
前文にあった上の「条件」、ちゃんと規約の中に組み込まれていました。
項目23.9 「優先権の逆転」。
この項目が上の条項にあたります。