ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

ある穏やかな春の日

2014年02月18日 | ガジ丸のお話

 ある穏やかな春の日、田園調布の立派な家に住む霞が関の高級官僚の妻が言う。
 「ねぇ、あなた、来月生まれるのよ。」彼らの娘が出産を控えている。
 「あー、そうだな、楽しみだな。」
 「そんな呑気な話じゃないのよ。」
 「どういうことだ?」
 「私の友達の娘さんが体調崩して、今沖縄に避難しているのよ。」
 「あー、それか。まあ、放射能に敏感な人もいるらしいな。」
 「私達は敏感じゃないからいいけど、生まれてくる子は大丈夫かしらと思ってるの。」
 「敏感な人はごく少数らしいじゃないか。」
 「今はいいかもしれないけど、汚染瓦礫がある間は、東京にも放射性物質が少しずつ流れているわけでしょ?どんどん増えていったら怖いなぁと思うの。」
 「それは、だから、瓦礫を遠くへ運ぼうと計画しているんじゃないか。」
     
 ある穏やかな春の日、その高級官僚の上司の部屋で数人による極秘会議。
 「捨て場所は沖縄以外に無いでしょう、あそこは我が国の植民地みたいなものだし、琉球人がどうなろうと、日本にはさほどの影響は無いと思われます。」
 「沖縄はダメだ、アメリカがYESと言わない。アメリカ軍が沖縄から撤退したら軍事バランスが崩れ、日本がどうなるか分からない。日本は魅力ある市場だ。今のまま、あるいは今に近い状態の市場を中国に取られたら、中国がアメリカを凌ぐ経済パワーを持つことになる。それは絶対避けたいというのがアメリカの思惑だ。」
 「だから、沖縄から撤退しない、基地を持ち続けたいわけですね。」
 「そうだ、だから、沖縄に汚染瓦礫は運べない。」
 「そうですね、アメリカ人は放射能に敏感ですからね。それにしても、つくづく残念ですね、北方4島の2島返還は進めておくべきだったですね。」
 「だな、それを思うと胃が痛む。最適なゴミ捨て場になっただろうに。」

 ある穏やかな春の日、沖縄嘉手納基地の、ある将校の部屋に下士官が入ってきた。
  「大佐、兵隊共が騒いでいます。放射能がやってくると。」
 「あー、沖縄の知事が瓦礫受入れするとかいう話だな。心配するなと伝えろ。放射能が来たらアメリカ軍は沖縄から撤退する、それは日本にとって絶対避けたいことだ。だから沖縄に放射能は来ない。沖縄に来る瓦礫は無害なものだ。私だって放射能は嫌だ、私や司令官や総領事が沖縄からいなくなったら慌てろって話だ。そんな日は来ない。」
 「そうですか、それは私も安心しました。兵隊共もそれで納得するでしょう。しかし、沖縄に運ばれる瓦礫が本当に安全なのか、日本政府の検査が信用できるんでしょうか?私はどうも、イマイチ信用できないんですが、検査が杜撰なのではないかと。」
 「それは大丈夫だ、沖縄に入ってくる瓦礫に関して言えば、出る前にアメリカ軍側でも検査するし、入ってくる時もアメリカ軍で念のための検査をする。」
 「そうですか、それなら安心だ。兵隊共にそう伝えておきます。失礼します。」
     

 ある穏やかな春の日、沖縄那覇市のとある居酒屋で、沖縄の呑気なオジサンたちが泡盛飲みながら呑気にユンタク(おしゃべり)している。
 「沖縄も瓦礫受入れするのかなぁ、それがたとえ汚染されていない瓦礫であったとしてもよ、わざわざ遠い沖縄にまで運ぶ意味が判らんよなぁ。」
 「いや、汚染瓦礫を運ぶんだぜ沖縄には。日本の支配者たちの中には沖縄を植民地と思っている奴もいるからな。基地と一緒だ、臭いものは植民地へってことだ。」
 「国は東京を放射能汚染から守らなければならないと思っているだけだ。東京がガタガタになったら日本は潰れる。アメリカは潰したがっているし、中国は昔の報復をしたがっている。それはどうしても避けなければならないと思っているだけだ。」
 「アメリカが日本を潰したがっているというのは、しかし一部だろう。日本が潰れれば借金もパーになるからいいじゃないかと考えている奴だけだろう。」
 「ともかく、放射能はいかんだろう、アメリカ軍が許さんだろう。」
 「アメリカ軍は放射能を理由に沖縄から出ていく。その代わり、日本本土に大きな基地を作る。沖縄くらい中国にくれてやれ、北海道はロシアにくれてやれと思っている。」
 「あー、それ、日本の分割統治ってマヤの予言かなんかにあったような・・・。」
 などと、呑気なウチナーンチュにしては珍しく社会的な話題で盛り上がっていた。
     
 ある穏やかな春の日、銀座の高級料亭のビップルームに老害の爺様が座っている。そこに目付きの鋭い中年の男が入ってきて、爺様に深く頭を下げた後、口を開く。
 「先生、永田町も霞が関も先生の思惑通り動いてますね。」
 「まあ、それは当然だわな、自分たちの健康も関わっているからな、大金も動いているし、裏社会からの脅しもあるしな。」
 「ただ、気掛かりなのは世論です。ネットでは反対の声が増えつつあるみたいです。」
 「それも、東京が受入れて、神奈川、千葉、埼玉など関東が受入れて、瓦礫処理がそう危険でないということを知らせれば世論も落ち着くだろう。遠い沖縄まで受入れが広がって行けば誰も文句が言えなくなる。それがお前の仕事だ。」
 「はい、重々承知しております。沖縄も北海道も何とかなりそうです。」
 「そうか、ふっ、ふっ、ふっ、」と、爺様は不気味に笑い、旨そうに酒を飲んだ。
     
 ある穏やかな春の日、新宿のマンションの一室に4人の中年男が集まってひそひそ話をしている。4人ともがっしりとした体格で、目付きが鋭い。
 「沖縄はどうなってる?」とリーダー格らしい男が別の男に訊く。
 「あー、何とかなりそうだ、アメリカ軍も、独自調査をするということで受け入れを了承し、利権好きの政治家が動いて、知事も『止む無し』と考えている。」
 「アメリカ軍の独自調査は好都合だな、良い宣伝になる。あとは世論だ、世論に押されてほとんどの市町村が受入れに慎重な姿勢となっている。」
 「ネット上での反対派の声が大きいんだ。しかし、ネット社会というのも困ったものだよ。『由らしむべし、知らしむべからず』が不能になってしまっている。」
 「東京の焼却施設周辺をマスコミに取材させて、放射線の計測もオープンにして、瓦礫が安全であることを周知させる。多少の放射線は出るかもしれないが微量だ。」
 「そうか、それなら文句は言えないな、反対理由の大きな一つが消える。」
 「物(ぶつ)は一気に運ぶ、一気に運んで一気に降ろす、調べる暇を与えないよう夜陰に乗じて行う。気付いた時には後の祭りってことだ。」

 ある穏やかな春の日、沖縄那覇市のとある居酒屋の呑気なオジサンたち。
  「いやいや、アメリカはそう簡単には日本を見捨てたりはしないと思う。消費大国の日本だ。TPPが締結されたらアメリカの物はもっと売れる。大事な得意先だ。」
 「そうだな。アメリカの脅威は中国だよ。東アジアの戦略上、日本はアメリカの子分にしておかなければならないというのがアメリカの考えだと俺も思う。」
 「だぜ、日本の優れた科学技術や人材が中国のものになったら、中国の軍事力が一気にアメリカに追いつくからな。アメリカは嫌だろう、それは。」
 「ということは、アメリカは沖縄から出ていかない。アメリカが出ていかないということは、放射能に汚染された瓦礫が沖縄に入ってくることは無いってわけだ。」
 「なるへそ、そういうことになっているのか、世の中は。それにしても、この天ぷら旨いなぁ、魚天ぷらだと思うけど、何の魚かなぁ?」
 「マンビカーだってよ。確かに旨いな。旨いといえば、このあいだ旨い汁を吸ってきたぞ。栄町へ行ったら可愛い女が立っていて、「もしや」と思って声を・・・。」以降、オッサン達の呑気な話は社会から離れて、下半身の話になり、夜遅くまで続いた。
     

 記:2012.4.6 島乃ガジ丸 →ガジ丸のお話目次

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